3.感謝を追求すれば、ロイヤルティはついてくる
互恵的で、真実味があり、感情に訴えるロイヤルティの感覚を生み出すには、どうすればよいのだろうか。その答えは、忠実な行動を最も喚起しやすい感情的反応である「感謝(gratitude)」の促進に焦点を当てることである。
感謝とは、定義によれば「ありがたいという気持ちを示し、親切をもって報いようとすること」である。感謝はそもそも、互恵的なものであることに注目してほしい。また、感情と行動の両方を伴うものである。ありがたいと感じ、その謝意を何らかの行動を通じて表現することだ。したがって感謝は、取引を超越した関係を築く基盤となりうる。
顧客が喜ぶことをすれば感謝が生まれると、つい考えたくなる。スターバックスが独自のロイヤルティ・プログラム(「マイスターバックスカード」でスターを溜めると、数々の特典が得られる)の成功で実証したように、取っ掛かりとしてはそれもよいだろう。プレゼントや購入特典といった顧客を喜ばせる手法は、短期的には効き目があるかもしれない。だが顧客は、もっと素敵なプレゼントをくれる他のブランドに、手なずけられたり簡単になびいたりするものだ。
持続的な感謝を生み出すための戦略とは、顧客とブランドが分かち合う「共通の意義(shared purpose)」を見出して推進し、さらに顧客がその意義を他者と共有するよう支援することである。共通の意義とは、ブランドが「顧客のため」にすることではなく、「顧客とともに」する何かである。
たとえば、オリジナルTシャツの製造を請け負うカスタムインク(CustomInk)のサイトで注文した顧客は、アンケートに答えると次のようなパーソナライズされたメッセージを受け取る。「あなたのTシャツのデザインは、あなた自身の延長であり、クリエイティビティの表明です! あなたのアイデアに命を吹き込むお手伝いができて、とてもうれしく思います。私たちは、当社製のTシャツが世の中で着られているのを見たいので、フェイスブックで当社をチェックしてみてください。Tシャツにまつわるあなたのストーリーをシェアしたり、創造物を投稿したりして、それを友達と共有することができます」
この文面には、感謝プログラムのすべての要素が詰まっている。カスタムインクは、取引を超越した「クリエイティビティの表現」という共通の意義を生み出している。文章では感謝の気持ちが表されているが、それは取引に対してではない(「ご購入ありがとうございます」等)。顧客の意義に貢献する機会が得られたことに対してである(「あなたのアイデアに命を吹き込むお手伝いができて、とてもうれしく思います」)。
同社は顧客との間にパーソナライズされたやりとりを設けることで、顧客に対するロイヤルティを示しているのだ。そしてTシャツを「創造物」と呼び、フェイスブックで共有できるようにすることで、Tシャツそのものをソーシャルカレンシー(ソーシャル空間での価値)にしている。
ゼネラル・エレクトリック(GE)もまた、「サプライズ・アンド・ディライト」という活動をもって感謝の戦略を追求している。同社には、「より質の高い健康を、より多くの人々に」という共通の意義を掲げる「ヘルシーマジネーション」というプログラムがある。その意義を果たす一貫として、GEは2012年に、健康に関する「心のつながり」を生み出すための社会活動を実施した(英語概要。同社はフェイスブックと協働し、健康に関する有意義な対話を促進するコミュニティを立ち上げた)。
GEはツイッター上のやりとりをモニターし、健康について話している人々に接触してコミュニティに巻き込んだ。そこではブランドを売り込むのではなく、関与への感謝とサポートを表現しようと努めた。時にはさらに踏み込んで、(対話によって心のつながりを築くという)共通の意義に貢献してくれたことへの感謝を目に見える形で表すために、個々人向けにプレゼント(ヨガマットや水筒など)を贈ることもあった。
感謝の精神は、やりとりの中に顕著に表れている。あるGEのツイートはこんな具合だ。「ブログへのあなたの投稿を読んで、思わず笑顔になりました。あなたの健康的な習慣を仲間たちと共有してくれてうれしく思います(^_-)」。これに続いて個人的なプレゼントが贈られた。受け取った人は次のように返答している。「素敵な贈り物に、思わず笑顔になりました。笑顔が世界中に広まりますように(^_-) そして、フィットネスについて友だちと共有するのは最高ですね!」
GEとカスタムインクの成功のカギは、顧客に示した感謝が本物であったことだ。発したメッセージは、次の取引を促すための見え透いた試みではなかった。明確に表現された共通の意義に触発され、「ありがたいという気持ちを示し、親切をもって報いよう」という心からの欲求につき動かされたものだ。さらに、ソーシャルメディア、パーソナライズされた対応、顧客支援を組み合わせ巧みに設計されたプログラムであることも重要だ。そこには、クーポンやロイヤルティ・プログラムのポイントのようなものは見当たらない。
ブランド・ロイヤルティをどう高めようかと頭を悩ませている方は、感謝プログラムの実施を検討するとよい。顧客とともに取り組める、共通の意義を見つけよう。その達成に貢献した顧客に、どこで感謝を示せるか考えてみよう。感謝を醸成すれば、ロイヤルティはその後から自然とついてくるだろう。
HBR.ORG原文:Why Customer Gratitude Trumps Loyalty October 19, 2015
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マーク・ボンチェク(Mark Bonchek)
シフト・シンキングの創設者兼最高洞察責任者(Chief Epiphany Officer)。デジタル時代を生き抜くための思考変革を支援する。