④ トランスナショナル企業

 事例こそ少ないが、ネスレやユニリーバのように、組織プロセスのグローバル統合と、製品・サービスの現地化の2つのバランスを取っている企業がトランスナショナル企業である。海外オペレーションに権限委譲することで市場に一番近いところで市場のニーズをしっかりくみ取り、ローカルに一番あった製品・サービスの開発が行われる。当然、製品開発などに関して海外オペレーションの専門性は高まり、中には本社に負けないコンピタンスを保有するところも現れる。その過程で得られたナレッジは本社や他国のオペレーションに直ちに共有される。

 一方、製品の製造になるとグローバルに張りめぐらされたネットワークとグローバルな事業規模のメリットを生かし、一番安価で原材料の調達がなされ、一番コストの安い場所で製造される。さらにグローバルな企業としての高水準の品質管理のもと最も効率的な方法で市場に運ばれ、市場に供給されるのである。③グローバル企業と同じように〇〇ウェイという企業文化は作られるが、親会社の企業文化を世界展開するグローバル企業と異なり、トランスナショナル企業では本社と海外子会社のパートナーシップの中で1つの企業文化が醸成されていくのである。

 以上、グローバル化の四つのモデルを紹介した。今後、育成していかなければならないGBLの人材像を考える上で、自社が将来どのような組織を目指すのかを社内でしっかり議論し、コンセンサスをとってしっかり定め、さらにその情報を社内で共有することが最も重要である。それが出来てしまえばどのようなGBL育成プログラムが最適なのかは自然に見えてくるのである。


(注1)Bartlett, C.A., Ghosal, S. (1989) Managing Across Borders. The Transnational Solution, Boston Mass.: Harvard Business School Press

経営学における多くのモデルがそうであるように、バートレットとゴシャールのグローバル化の形態モデルにも様々な批判がある。一番多いのが現実の企業を当てはめようとすると、四つのどれかにぴったり当てはまらないという指摘である。製造、品質管理、研究開発、調達、流通、マーケティング、営業、財務、経理、人事などの各組織機能が、異なる象限に位置する例も少なくなく、それでも海外ビジネスでちゃんとやっている企業があるというのだ。また、同じ会社の中でもビジネスユニットによって異なるグローバル化の形態をとっている企業も少なくないという指摘もある。そのようなフィードバックを背景に、その後、多くの学者がバートレットとゴシャールのモデルを補完するモデルを考え、発表している。しかし、バートレットとゴシャールのモデルを全否定している学者は例外的少数であることから、本稿では本社と海外子会社の権限バランス、全体的な役割分担、組織文化などで異なる海外展開のパターンがあるという事実を認識する上で役に立つと判断し、このモデルを紹介した。