人事制度の抜本的改革

 今後のCEOを含む役員選定のあり方もガバナンス改革の根幹をなす。まず、現在の業況と中長期的な戦略を踏まえCEOにはどのような資質が必要か、社内で共有されている必要がある。複数の候補がある一定の時期から、その資質を目指して育成されなければならない。その組織の価値観を体現している人物である必要があるが、硬直的なのもよくない。

 ビジネス環境はめまぐるしく変わるものであり、その時々に必要な資質も変化しうる。それが明確化されていることが重要だ。その選定プロセスについては、社外役員を含めた検討委員会のメンバーに、候補者の資質を理解できるような機会を日頃の業務に組み込む。候補者には社内だけでなく、社外者も含まれる場合もあり得る。そのためには、人事部の持っているデータだけではなく、第三者による評価やインタビューなど、客観的な材料も十分に準備されることが必要だろう。

 このようなことを成り立たせるためには、組織全体で人事評価の基準が明確にされ、客観的データにより人事が判断されることが前提になってくる。自分の専門性や強み、これから伸ばすべき能力や、得るべき知識などが評価者と本人との間で共有されていることが重要だ。

 それが積み重なって役員候補選定にまでなっていく。日本企業の役員の経歴は、入社後、○○課長、○○部長、常務、専務への就任年月はわかっても、人材の強み、どのビジネス分野を専門・得意として、何を成し遂げてきたのかという点は不明なことが多い。社外の人による評価や、社外からCEOの候補になりうるといった概念がもともと希薄であったからだと思われる。今後大きな変革を迫られるだろう。

 2~3年間、取締役会などでの発言や説明・応答の観察、その後の指名報酬委員会による面接だけで、トップの資質が社外役員にわかるわけがない、という主張も根強い。学卒入社で30年以上一緒に仕事をしてきたからこそ、その人を理解できるという自負を語る幹部も多い。

 しかし、実際のところ、取締役会での発言や反応・対応、一定の時間をかけた丁寧なインタビュー、ピアレビュー(成果を同僚などが詳細に評価すること)の結果などを見れば、仕事をする上での資質はかなり正確にわかる、というのが実感だ。もちろん指名報酬委員会の委員は資質を見抜く力を養い、その人物を評価する前提となる機会の確保や資料の読み込みに時間を割くべきである。しかし、「長い間付き合わないとわからない」というのは終身雇用・年功序列の考え方を元にした思い込みのように思う。