●筆者らの1人(ルカ)がダンカン・ギルクリストおよびディーパク・マルホトラと共同執筆した論文では、次の研究結果を示している。賃上げが従業員のパフォーマンスに及ぼす影響は、各従業員の持つ参照点(リファレンスポイント。人がある物事の認識や評価をする際に基準とする点)次第であり、参照点はしばしばコミュニケーションによって決定づけられる(英語論文)。
給与通知書は一般的に、会社と社員の絆を強化する絶好の機会であるにもかかわらず、無駄にされていることが多い。たとえば、次の文言を考えみよう。
「今回の昇給は、あなたが会社のために尽力されたことへの感謝の証です」
または、
「今回の昇給は、あなたが同僚のために尽力されたことへの感謝の気持ちです」
どちらの文言が今後のモチベーションアップにつながるかは、各社員の現在の業務とモチベーションのあり方によって異なる。そしてこれは、ランダム化比較試験で簡単に試すことができるのだ。
●企業は顧客にリーチする手段としてテキストメッセージを多用するが、どんなやり方が有効なのかを実験によって検証している企業は少ない。
米国の選挙での例を見てみよう。ニール・マルホトラと共同研究者らは2011年に、カリフォルニア州選挙で実験を行い、厳選された文言の「コールドテキスト」によって投票率が上がることを明らかにした(英語論文。有権者に直接の訪問や電話で投票を働きかける方法ではない、非個人的なテキストメッセージだけで効果があるのかを実験した。そして見ず知らずの有権者の携帯電話に突然「明日は投票日です。民主主義はあなたのような市民に支えられています。ぜひ投票を!」というメッセージを送信したところ、それだけで投票率が上がった)。
ただしこの場合、1回の実験だけでは不十分だろう。テキストメッセージは当初こそ大きな効果を上げたが、今ではきわめて一般的なツールとなったので、効果は以前よりも下がるかもしれない。
●実験によって、直感が実は外れていたということも明らかにできる。たとえば、自社の広告メッセージの効果に自信を持っていた企業が、我々と実験を行ったところ、効果が全然なかったことが判明している。
* * *
顧客や従業員とコミュニケーションを取る手段として、毎年のように新たなツールが現れる。手紙から始まり、Eメール、テキストメッセージ、インスタントメッセージ、チャット用アプリ。これらはすべて、効果的な意思伝達によって自社の目標を達成するチャンスとなる。
実験によって、顧客とのやり取りを体系的に向上でき、効果が実証された改革を実行に移せる。適切な方法による実験は成功を促進し、学習とイノベーションの文化を生み出すのである。
HBR.ORG原文:Good Communication Requires Experimenting with Your Language February 04, 2016
■こちらの記事もおすすめします
ビジネス実験を成功させる7つのステップ
ビジネスの仮説を高速で検証する

マイケル・ルカ(Michael Luca)
ハーバード・ビジネススクール助教。経営管理論を担当。
オリバー・ハウザー(Oliver Hauser)
ハーバード大学の博士課程履修生。