なぜ人材育成マネジャーが、
生産性について書くのか?
――人材育成マネジャーが生産性について本を書くというのは意外な感じもしますが。
人材育成というのは人を成長させる仕事、人が成長することの支援をする仕事ですが、成長するというのは「生産性が上がること」に他ならないからです。
知識が増えることや難しい資格をとること、それに英語が上手くなるとか、そういうことを成長だと思っている人がいますが、仕事においては「同じ成果をいままでより短い時間で達成できるようになること」、そして、「同じ時間で、今までより遙かに高い成果が上げられるようになること」こそが成長するという意味です。
つまり人材育成マネジャーとしての私の仕事は、新人コンサルタントの生産性を上げることだったんです。
――伊賀さんは、前著の『採用基準』ではマッキンゼーにおけるリーダーシップのあり方について書かれています。今回の『生産性』は、前著とのつながりがあるんでしょうか。
表紙を見て頂いても対になっているので、ご想像のとおりです(笑)。
私は日本で教育を受け、最初は日本の会社で働きました。その後、ビジネススクールとマッキンゼーを合わせると、19年、アメリカ的なカルチャーの中で過ごしました。そこで日米の組織が人材に求める資質がすごく違うと感じたんです。
その代表格が、リーダーシップと生産性です。組織の全員にリーダーシップを求めるアメリカと、リーダーは組織にひとりでいいと考える日本。いかに生産性を上げるかと頭を捻るアメリカと、いかにいい物を作るかと必死になる日本。そこには大きな違いがあります。
そして、その差が組織パフォーマンスに大きな影響を与えています。リーダーは組織にひとり、後はみんな「よきフォロワー」という組織では意思決定に時間がかかり、現場を知らないトップがずれた判断をしてしまうリスクも高まります。ひたすらに「いい物」を求める姿勢は、行き過ぎると「何時間働いてでもよりよいモノを」となりがちです。
また前回も指摘したように、「生産性が低いまま長時間働く企業」は組織も人も疲弊する一方なのに、「高い生産性で長時間働く」ハイパワーな企業は、瞬く間に世界の市場を席巻してしまいます。リーダーシップと生産性の意識、この2点を変えないと、日本の組織がふたたびグローバルに高い成果を上げていくことは難しくなると思うんです。
――その2点が競争力格差の原因だということですね。
はい。でも反対にいえば、違いはその2点だけです。日本人は教育水準も高いし、みんな勤勉で向上心も旺盛、やる気もあります。ところが組織全体で比べると、リーダーシップキャパシティが小さいために、そのパフォーマンスが大きく減じられる。
生産性に関しても同じです。日本企業は、工場以外の職場では生産性の重要性が十分に認識されていませんが、米国の企業は研究開発から人事部門まで、あらゆる分野で生産性を上げようと必死になっています。財務においてもROEなど“比率”を重視するのは、投下資本の生産性に敏感だからです。
しかもこの差は、大企業だけではなく、ベンチャー企業でも見られます。日本のベンチャー企業は、少し大きくなるとすぐにベンチャー企業らしからぬ生真面目さが生まれ、早々に大企業化する(笑)。
ひとつは組織が急拡大する過程で急増する大企業からの転職者が、生産性の低い「丁寧なやり方」を持ち込んでしまうから。それと、最近は起業家の中に高学歴の人が多いでしょ。それはいいことだと思うんです。優秀な人ほど大企業の駒に収まらず、自分で世界を切り開いてほしい。でも、そういう人は「なんでもきちんと」やってきています。優秀な人ほど規律をきちっと守る。
もちろん「いい加減」より「きちんと」がいいのは分かります。でも「きちんとする」ための業務は、必ずしも生産性の高い仕事ではないかもしれない。そこのところはもうすこし意識をしてほしいと思います。
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●定員:100名様
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かつて日本企業は生産現場での高い生産性を誇ったが、ホワイトカラーの生産性が圧倒的に低く世界から取り残された原因となっている。生産性はイノベーションの源泉でもあり、画期的なビジネスモデルを生み出すカギなのだ。本書では、マッキンゼーの元人材育成マネジャーが、いかに組織と人材の生産性を上げるかを紹介する。
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