第1の理由は、フルタイムの職が減っていることだ。米国の民間セクターではかつて、フルタイム雇用の創出・拡大が年率2~3%で続いてきた。この数字は2000年、ITバブルの崩壊を機に2%を切る。2008年には、雇用創出率は1%以下にまで落ち、その後も史上最低レベルが2015年まで続いている。経済学者のローレンス・カッツとアラン・クルーガーは、米国における2005~2015年の雇用の純増分はすべて、フルタイムではない非正規雇用によるものであることを確かめた(英語論文)。
雇用が減っているもう1つの原因は、米国の雇用増加の原動力が失速したことだ。新しい雇用のほとんどを生み出すのは小規模企業だとよく言われるが、より正確には「若い」企業である。そして新しく起業する若い企業の増加率は史上最低レベルであり、起業から生まれる雇用の数も昔より減っている。スタートアップ企業は米国で1980~99年まで毎年約300万人の雇用を創出していたが、2000年以降は200万強に留まっている(英語報告書)。
企業は雇用を創出する代わりに、「職(job)」と「仕事(work)」の分解を進めている。たとえば、ジャーナリストとしての正社員職はもう残り少ないが、フリーランスのライターの仕事は需要が多い。同じように、これまでの「マーケティング担当ディレクター」という1つの職は形を変え、ソーシャルメディア専門業者、PR代理店、マーケティング戦略コンサルタントなどによる仕事へと分解されている。かつての職は、今日のギグエコノミーでは個々の仕事にすぎないのだ。
私が学生に与えるアドバイスは、ますます減っていく「職」ではなく、豊富にある「仕事」を求めることである。
就活をやめるよう勧める第2の理由は、企業にとってフルタイムの雇用は最後の手段、苦肉の策になりつつあることだ。いまや多くの企業は正社員の雇用を望まず、なるべく避けている。極力少数の正社員で済むビジネスモデルの構築と会社の運営を模索しているのだ。
正社員は最もコストが高く、最も柔軟性の低い労働力である。どちらの特質も、従来の米企業社会とシリコンバレーのスタートアップ企業の両方にとって魅力的ではない。政策立案者らはいまだに、時代遅れの労働市場構造を維持している。企業は正社員のために最も高い税金を支払い、正社員に対してのみ一定の福利厚生と保護が義務づけられている。したがって正社員を雇うコストは、同じ仕事をする独立事業主を使うよりもかなり大きい(3~4割高)。
さらに、公的・民間どちらの資本市場も、従業員数の制限や削減をした企業に高い評価を与えてきた実績がある。パートタイマーや独立請負人の利用、仕事の自動化、アウトソーシングなどのトレンドが、広く定着し拡大しているのも当然のことだ。
だからといって、正社員が完全に消えるということではない。必須人員、需要の高い有能人材、そして上級管理職から成る小規模の中核チームは常に必要とされ、企業はここに正社員を揃えたいはずだ。クオリティ、一貫性、継続性などが理由である。しかし、この中核部分を除けば、企業には経済的にも市場的にも正社員の数を抑える強い動機がある。
私の学生が取るべき最善の方策は、正社員ではなく独立事業主として生きる準備をすることなのだ。
第3の理由は、ほとんどの米国人にとって、従来型の働き方は明らかに有効ではないことだ。職の安定はもはや失われ、かつてフルタイム雇用に付きものだった、高い賃金、豊かな福利厚生、退職までの保証なども減少か消滅の状態にある。
ギャラップの調査によると、米国人の約70%は自身の仕事に意欲を持っていない(英語サイト)。対照的に、マッキンゼーによる8000人超の労働者を対象とした最近のアンケート調査では、仕事生活における満足度は独立事業主のほうが会社員よりもほとんどの面で高い(英語報告書)。
また、幹部人材育成会社のフューチャーワークプレイスと人材マーケットプレイスのフィールドネーションが、959人のフリーランサーを対象に行ったアンケート調査では、74%が独立のままを望み、フルタイムの職に戻るつもりはないと答えている(英語サイト)。ギグエコノミーの特性である選択肢、自由裁量、柔軟性、コントロールなどは働き手の満足度を高めているが、フルタイムの仕事にはこれらが欠けていることが多い。
私の学生も、「いい職に就く」のではなく「素晴らしい仕事に携わる」ことを重視するほうが、意欲的で充実した仕事生活を送れる可能性が高いのだ。
ギグエコノミーが台頭し急成長するなか、MBAコースの内容はなかなかこれに適応できずにいる。ビジネススクール自体もパートタイムの非常勤講師が増えているのに、そのコース内容は依然として、学生をフルタイム職の正社員に就かせるよう設計されている。夏休みには、単発のさまざまな仕事を体験できるよう後押しするのではなく、単一雇用主・フルタイムでのインターンシップや従来型の雇用を提供している。
大学を訪問して採用活動をする企業も、フルタイム職のオファーしかしない。契約ベースの仕事、コンサルティングのプロジェクト、フリーランスの仕事などに関心を持つ卒業生は、自力でチャンスを見つけるかつくり出すほかない。
この状況は、変える必要がある。学生に対してMBAが果たすべきは、過去の「正規雇用に基づく経済」ではなく、今後のギグエコノミーで成功できるように育てることなのだ。
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ダイアン・マルケイヒー(Diane Mulcahy)
バブソン大学でギグエコノミーのMBAコースを創設し、非常勤講師を務める。カウフマン財団のシニアフェロー。著書にThe Gig Economy: The Complete Guide to Getting Better Work, Taking More Time Off, and Financing the Life you Wantがある。