第1に、自分たちの事業は何かを改めて問い直した。ドミノ・ピザの事業は単にピザの製造だけでなく、ピザの宅配でもあることをドイルは強調した。それが意味するのは、テクノロジー事業に参入する必要があるということだ。「当社はピザ会社であると同時に、テクノロジー会社でもあります」と彼は聴衆に述べ、本社従業員800人のうち、実に400人がソフトウェアとアナリティクスに従事している事実を挙げた。
実際、それらのテクノロジーを駆使して、顧客の注文方法および注文状況のモニタリング方法を変えた(アプリやツイッターで注文でき、絵文字1つをツイートするだけでもピザを頼める)。そして、自社のオペレーション管理の方法も変革している。
第2に、ドミノ・ピザというブランドを生き返らせる必要があった。宅配は同社事業の根幹を成すものだが、ピザもまた重要である。そのピザが、お粗末だったのだ。
ドイルのCEO就任後間もなく始まった広告キャンペーンは、その大胆さゆえに伝説となっている。同社のピザへの意見を述べるフォーカスグループの様子を、広告で見せたのだ。「いままでに食べたうちで最悪のピザ」「ソースの味がケチャップみたい」「ピザ生地がボール紙のような味」。広告にはドイル自身が登場して、こうした容赦のない批判を認め、改善するために「日夜・週末を問わず取り組みます」と約束した(ピザ改革のキャンペーンを紹介する英語動画)。
ドイルと従業員は、商品と企業イメージの改革に取り組んだ。ピザが改善された後、ドイルはドミノ・ピザをイタリアで開店する計画を発表した。どう見ても大胆不敵な一手である(スターバックスはいまだイタリアに進出していない。ただし、2017年にオープンする計画はある)。
ドイルはまた、クラウドソーシングを通じてカーデザイナーたちと連携し、ドミノ・ピザの宅配車「DXP」を開発した。カラフルでデザインもクールなこの車両は、シボレー・スパークを改造したものだ(アドウィークの記事いわく「チーズ愛好家にとってのバットモービル」)。1人乗りで、ピザを最大80枚運べる保温オーブンを装備している。
ドイルの説明によれば、「配送は当社ビジネスの中核」であるため、「ピザ宅配の専用車」を開発することは理にかなっているという(同社はロボットおよびドローンによる宅配も実験中だ)。これらの取り組みには物理的な側面もあるが、自社のイメージを現代的にするという意図も明白に見られる。マッシュルームやペッパーに加えて、流行感とユーモアのセンスも添えようというわけだ。
ドミノ・ピザのイノベーションを挙げていけば、いくらでも続けられる。しかし、ドイルが示す最も重要な教訓は、厳しい事業領域で企業が大きなことを成すために必要な考え方だ。ドイルによれば、経営幹部が陥りやすい2つの大病は、行動経済学でいう「不作為バイアス」と「損失回避」である。
不作為バイアスとは、何かをしないことよりも、何かをすることのほうをより心配する傾向だ。このバイアスが生じる理由は、実行して失敗した結果は誰もが知るところになるが、実行しないことの代償を考える人はほとんどいないことにある。
また損失回避とは、勝つことに賭けるよりも、損をしないことに賭ける傾向だ。「損失の痛みは勝利の喜びの2倍」であるため、創造性が要求される状況においてさえ、人は慎重になってしまうという生来の性質を持つ。
物事を大きく変えたいリーダーは、「失敗も1つの選択肢(failure is an option)」という考え方に慣れる必要がある――これがドイルの結論だ。激しい競争と絶え間ない破壊的変化が起きている世界では、安全策を取ることは、あらゆる打ち手のなかで最もリスクが高いのだ。失敗をありとすることは、おいしいピザと大きな変化を実現する改革のレシピである。
HBR.ORG原文:How Domino’s Pizza Reinvented Itself November 28, 2016
■こちらの記事もおすすめします
ビッグデータで長期的ブランド価値を上げる

ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』(ダイヤモンド社)。既刊邦訳に『マーベリック・カンパニー 常識の壁を打ち破った超優良企業』(日本経済新聞出版社)がある。