●オムニチャネル顧客は、さまざまなタッチポイントを熱心に利用する
調査結果によれば、オムニチャネル顧客は、当該企業が提供する複数のタッチポイントをさまざまな組み合わせと場所で熱心に利用していた。スマートフォンのアプリで価格の比較やクーポンのダウンロードをするだけでなく、店舗内のデジタルツールも好んで使っていた。たとえば、インタラクティブなカタログ、価格比較ツール、タブレットなどである。オンラインで購入して店舗で受け取るか、店舗で購入して商品を発送してもらうこともある。以降の記述では、当該企業が提供する諸々のアプリ、デジタルツール、実店舗を、それぞれ別のチャネルと見なしている。
●利用するチャネルが多い顧客ほど、多くの価値をもたらす
我々の調査結果は示唆に富むものであった。オムニチャネル顧客は複数の面で、売り手により多くの価値をもたらすことが示されたのだ。買い物体験に調整を施して分析したところ、オムニチャネル顧客は、単一チャネルの顧客よりも、店舗購入時に毎回平均4%支出が多く、オンラインでの支出は10%多かった。
もっと注目すべき結果として、顧客が利用したチャネルの数が1つ増すごとに、店舗での支出額も増えていた。たとえば4つ以上のチャネルを利用した顧客は、チャネル1つの利用者と比較すると、店舗での支出が平均で9%多かった。
驚くべきことに、オムニチャネル顧客が当該企業または他の小売業者のウェブサイトで事前にリサーチした場合には、店舗での支出が13%多かった。この発見は、突発的・衝動的な買い物が従来型小売業者の売上げに大きく貢献している、というこれまでの定説に反するものだ。むしろ、顧客が前もって入念に調べると、店舗での購入額が増すことが示されている。
この結果はまた、ショールーミングに関する従来の通念とも対立する。これまで、買い物客は店舗でリサーチしてからオンラインで購入するようになっていると言われてきた。しかし今回の調査からは、当該企業のオムニチャネル顧客が「ウェブルーミング」をしていることが明らかになった。この傾向は、特に米ミレニアル世代の消費者の間で広まっている。
オムニチャネル顧客は購入額が大きいだけではなく、ロイヤルティも高い。彼らはオムニチャネルでの買い物体験から6ヵ月以内に、単一チャネルの利用者に比べ、当該企業の店舗に出向いてリピート購入した回数が23%多く、家族や友人への推奨率も高かった。
ただし、1つ重要な注意点がある。ここで報告した相関関係は、因果関係と混同すべきではない。我々は今回の調査に基づき、「オムニチャネル顧客はより多くの価値を小売業者にもたらす」と、自信を持って言える。だがその理由は、彼らが、そもそもロイヤルティが高く、当該企業と密接に関わっていたからだろうか。それとも、オムニチャネルという、複数のタッチポイントがある豊かな買い物体験そのものが、より多くの支出、リピート、推奨につながったのだろうか。これらの答えはまだ明らかではない。
いずれにせよ我々の調査は、従来型の小売業者が頼みとする理論と確かに合致している。つまり、オムニチャネル戦略を採用して差別化を図ることで、オンライン小売業の猛攻に対抗すべきということだ。
さまざまなチャネルが存在する今日の環境において、オムニチャネルの能力は中核顧客のエンゲージメントを高め、最終的には彼らの実店舗訪問を後押しする。実店舗を持つ従来型の小売業者は、オンラインの能力を活用するだけでなく、フィジカルとデジタルの世界を同期させてシームレスなマルチチャネル体験を提供することで、優位に立てるだろう。それは、オンラインのみの小売業者には真似できないのだから。
HBR.ORG原文:A Study of 46,000 Shoppers Shows That Omnichannel Retailing Works January 03, 2017
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エマ・ソパジーバ(Emma Sopadjieva)
メダリア(Medallia)のリサーチおよびアナリティクス担当マネジャー。同社はSaaS型の顧客体験管理システムの世界的なプロバイダー。

ウトパル・M・ドラキア(Utpal M. Dholakia)
ライス大学ジェス・H・ジョーンズ経営大学院ジョージ・R・ブラウン記念マーケティング講座教授。
ベス・ベンジャミン(Beth Benjamin)
メダリアのシニア・リサーチディレクター。組織科学を現実世界の問題に適用して、企業が成長と市場変化の課題に対応できるよう支援している。