「3つの貢献」とやりがい

中竹:でも注意したいのは、ただの進捗ではだめなんですよね。「やりがい」のある仕事の進捗でないといけない。

石川:そこがこの本でもポイントになっていますよね。ドラッカーが『プロフェッショナルの条件』という本で、「貢献とは何か」という話をしています。直接の成果(定量的なもの)、価値への取り組み(定性的なもの)、人材の育成。詳しくはこの名著を読んでほしいんですが、この3つの貢献が「アウトプット」を指していて、自分の仕事が3つの貢献とつながっていると、「やりがい」が感じられる。こういう風に整理できるんじゃないでしょうか。

中竹:なるほど。「私は掃除をすることで、人類を月に送ることに貢献しているんです」でおなじみのNASAの清掃スタッフに当てはめると、掃除という直接の成果が、人類を月に送るという価値への取り組みにつながるからやりがいを感じられる。そして、そうした一人ひとりの仕事に対する姿勢が、例えば組織文化を醸成してよい人材の育成にもつながる。

石川:日本でいうと、新幹線の清掃員の方々もそうですよね

中竹:私も思い浮かべました。そうすると、マネジャーや経営者にとって大切なのは、「直接の成果」「価値への取り組み」「人材の育成」、この3つの貢献とやりがいをどう関連付けていくかということになりますね。

石川:多くの社員に求められるアウトプットは、「直接の成果」だと思います。ただ、直接の成果は、売上とか利益とかに寄与する活動なので、当然失敗がつきもの。たとえば、ある外資系の会社では、当然ハイパフォーマンスが求められますが、直接の貢献ができなかった場合の救済措置があるみたいなんです。飲み会を開くとか、社内トレーナーになって社員の健康を促進するとか、そういう人材育成や価値への貢献も人事考課の査定にちゃんと入る。こういう制度があると思い切って新しいことにも取り組めそうですよね。

中竹:すごいなあ。やりがいとアウトプットが上手に設計されていますね。

 僕は昔からチームメートや監督から「亀」って言われていたんです。目立たないけどコツコツ小さな進捗をしてチームに貢献するタイプで。そういう自分のスタイルを評価してくれる本なのかもしれない、というのがこの『マネジャーの最も大切な仕事』を読んだ時の第一印象だったんです。

石川:「亀」と言われた中竹さんがまわりから評価されて主将になったり監督になったりしたのは、いろんな進捗に貢献したからだと思います。

 つまり進捗とは何かというと、必ずしもアウトプットに直結しなくてもいいんですよね。さっき中竹さんが言っていた「オフ・ザ・フィールド」が大事というのと同じで、プロセスやインプットの進捗でも偉大なんです。僕はインプットは「問いを立てること」だと思っていて、すばらしい問いを立てることも立派な進捗。そして「プロセス」は考えることだと冒頭に言いましたが、現代人の仕事の大半は考えることです。どう考えるか?を考え抜くことができたら、おのずと良いアウトプットにつながります。

中竹:本の中にも、色々な進捗のかたちが登場しますよね。「バグが解決した」とか「どう考えればいいかがわかった」とか。だからマネジャーにとって大切なのは、どんな進捗を支援したいかを意識して行動することなのかもしれません。

石川:あと僕の理解では、毎日進捗しなくてもいい。一週間何も進捗しないのは問題だけど、達成できない日だって当然ある。だから、「今日は自分もチームも進捗しなかった!最悪だ!」と思い悩む必要はなくて、そういうときは「なぜ進捗しなかったか」「今日、印象に残ったことはなにか」と問いを立ててみましょう。

中竹:毎日問いを立てるというのはいいですね。この本の土台になったのは、26チーム、238人から集まった1万2000の日誌ですが、かつてはこういう日誌や日報をやっている会社がたくさんありました。進捗や問いのインパクトを目にすると、実はこういう習慣が「よい仕事」において大切なんだと思い知らされますね。

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