この問いは「発明」だ!
中竹:キャラクターについておもしろいエピソードがあります。実はこの本を読んで、さっそく自分のチームでやってみたんです。「今日、印象に残ったことを一つあげよ」と。
石川:おー! どうでした?

中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。株式会社TEAMBOX代表取締役。 1973年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスタ―大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。現在、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。2012年より3期にわたりU-20日本代表ヘッドコーチを務め、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。また自身で会社も経営し、企業のリーダー育成に取り組んでいる。著書に『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP社)など。
中竹:強いチームと弱いチームではっきり反応が分かれますね。
まず、スポーツの世界ではオン・ザ・ボール(ゴール数など)が全てでしたが、次第にオフ・ザ・ボール(ゴールなどに直結しない動き)も重視され、いまは「オフ・ザ・フィールド」が注目されています。特にナショナルチームの場合、試合や練習はごく一部で、ほとんどの時間が選手同士の共同生活。だから、食事やミーティングとか、フィールド外の時間でどれだけチームに貢献したかが問われ始めているんです。
それで、「今日、印象に残ったことを一つあげよ」という問いを立てると、強いチームに限って、このオフ・ザ・フィールドの話が出てくるんです。部屋をきれいにした、時間を守った、ちゃんと挨拶をした。そしたらお礼を言われて気分がよくなって、人に気をつかえるようになった、みたいな。
石川:おー、mPFCが光っていますね(笑)。
中竹:その結果、チームワークがよくなったり新しいことに貪欲になったりして、試合や練習でいいパフォーマンスを発揮できる。この問いって、「キャラクター」を磨くことを通じてサイクル全体にいい影響を与えていますよね。

石川善樹(いしかわ・よしき)
予防医学研究者。株式会社Campus for H共同創業者。 1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と共同研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、機械創造学など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『仕事はうかつに始めるな』、『疲れない脳をつくる生活習慣』(いずれもプレジデント社)など。
石川:まさにそうですね。僕はこの本を読んで、「今日、印象に残ったことを一つあげよ」という問いは、「発明だ!」と思いました。現代社会において、「いかに始めるか」はみんなの関心事ですが、「いかに終えるか」は完全に見過ごされています。始業時間に出社して、わーっと仕事して、夜になったら帰る。その繰り返し。「いかに終えるか」を問うてないから、闇雲に働いてしまい、気づきも学習も生まれず、その結果、仕事のサイクルが回らなくなってしまう。
中竹:進捗しないということですよね。この本の最大のメッセージである「やりがいのある仕事が進捗するよう支援する」って、めちゃくちゃ地味ですが、実は野心的。マネジメントの常識に挑んでいます。
石川:社員が健康だと経営が良くなる「健康経営」って最近よく聞きますよね。僕はこれは逆だと思っていて、経営が良いと社員が健康になる。個人に言い換えると、仕事が進捗すると健康でいられる。進捗しないと具合が悪くなるんです。僕も本やテレビで、健康のために寝ましょう、食べましょう、あるいは食べるな、とか色々言っていますが、それらはもういったん脇に置いて、社員の健康状態を考えている人は、まずこの本を読みましょう(笑)。大前提は、「仕事の進捗」。