『採用基準』『生産性』の著者であり、人材育成や組織課題の解決が専門のコンサルタント伊賀泰代氏と、外資系優良企業をトップとして率い、変革者としても名高いネスレ日本の高岡浩三社長との異色対談が実現。グローバル企業での経験の長いお二人に、日本企業での働き方の問題点を語っていただいた。1回目は、日本企業の課題からマーケティング経営を提唱する。(構成/田原寛、撮影/鈴木愛子)
一にも二にもリーダーシップ
伊賀泰代(以下、伊賀):ネスレは日本だとマーケティングの会社というイメージが強いですけど、グローバルな評判としてはむしろ人材育成とか、生産性も含めた組織マネジメントに優れた企業というイメージのほうが強いですよね。

ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社(営業本部東京支店)。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『逆算力』(共著、日経BP社)がある。
高岡浩三(以下、高岡):そうですね。そういう点では、GE(ゼネラル・エレクトリック)と似ている印象が海外では強いかもしれません。GEだとニューヨーク州クロトンビルにある研修所が有名ですが、ネスレもスイスにリブレイン国際研修センターがあって、常に社員研修を行っています。
ネスレは日本もそうですが、スイスの本社でも長く勤める人が多くて、非常に教育熱心。スイスにIMDという世界的なビジネススクールがありますけど、その前身の一つ、IMEDEはネスレが1957年に設立したものです。われわれ経営幹部は全員、IMDのプログラムを修了しないといけない。
伊賀:研修センターであるリブレインとビジネススクールのIMDでは学ぶことが違うんですか?
高岡:IMDはビジネススクールなので、マーケティングとか組織論とか、一般的にMBAコースで学ぶ内容です。リブレインで学ぶのはいわゆるネスレのDNAとでもいいますか、思考法やノウハウの習得が中心ですね。マーケティングとか、財務とか、組織のファンクションごとに細分化された研修コースもあって、かつては役員秘書のコースまでありました。全体としてもっとも重視しているのは、リーダーシップ。特に近年は一にも二にもリーダーシップという感じです。
伊賀:やっぱり!私が『採用基準』の中で、リーダーシップは新入社員も含めて全員が持つべきビジネスの基本スキルだと書いたら、「えっ、そうだったんですか?新入社員にもリーダーシップが必要なんですか?」みたいな反応もまだまだ多かったんです。
日本では「リーダーがたくさんいたら混乱するから、多くの人に必要なのはリーダーシップではなく、よきフォロワーシップじゃないか」という意見もあります。でもフォロワーシップなんていう言葉は、少なくとも私が17年在籍したマッキンゼーでは聞いたこともない。
高岡:ネスレでも聞いたことはないですね。日本で最近よく聞く「グローバル人材」というのも聞いたことがない。