特殊で難しいツールは必要ない
入山:本書に示されている具体的な方法論についてですが、私は「スケッチをすること」がとても効果的な手段だと思いました。
ナップ:それはスプリントのビッグアイデアの一つです。スプリントでは洗練されたツールは何も使わず、ホワイトボードに手書きで絵や図を描いたり、付箋を貼り付けたりするなど、誰にでもできる作業しか行いません。だからこそ、どんな人にもできるプロセスになっているのです。全員に同じツールを与え、平等な競争の場に立たせることで、アイデアに関するバイアスが掛からないように配慮しているのです。
入山:本にも「大きなホワイトボードを2つ確保する」と書かれています。ホワイトボードが参加者の「共有の脳」であるということですね。全体像を知り、みんなで同じステージに立って、みんなで一緒にマッピングしていくことは大切だと思いました。
ナップ:いまやデジタルデバイスを使ったほうが便利な時代になりましたが、脳を使うときには手を使い、物理的に考えたときのほうが、よく機能すると思うのです。
入山:あるAIのスペシャリストと話をする機会があったのですが、全体像を捉え、直感にもとづいてビッグアイデアを抽出すること、もしくはおもしろいパターンを見いだすことは、未だにAIにはできないそうです。その能力は、いまだに人間のほうがすぐれていると言っていました。
ナップ:驚くようなアイデアが出てくるときは、みんなが一斉にハッと気づく瞬間があります。それについては、この本に出てくる、がん患者を最適な臨床試験にマッチングするソフトウェアツールの開発エピソードに書いてあります。
ターゲットをどのように絞ってテストしたらいいか。それをスプリントで探っていったのです。最高医療責任者(CMO)、がん専門医、ソフトウェアのエンジニアなどが集まり、その情報をホワイトボードで共有しました。そのプロセスを経たおかげで、意思決定者は参加メンバーの脳の中身を理解したうえで、迅速な決断を下すことができたのです。そのような決断を下すには、みんなが見える形で共有しなければ、なかなか決断は下せません。文書の中、もしくはスクリーン上で大切な意思決定をするのは、実はとても難しいことなのです。
本書には、ほかにもさまざまなツールが登場します。しかしいずれも、誰にでも簡単にできるものばかりです。ぜひお読みいただき、すぐにでも実践してください。スプリントによって、みなさんが多くの成果を上げられることを願っています。
入山:今日はありがとうございました。私も、今日のナップさんの話をうかがって、改めて読み直してみます!
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