リーダーは生まれるのでなく育てるもの

伝統的大企業ほど、外部からトップを招聘するなどはせず、サラリーマン社長によって率いられる状況は続くことが予想されます。そうした企業は、どうすればよいのでしょうか?
イノベーターを見抜けるようなリーダーをどう育てていくか。それしかないと思っています。
リーダーは生まれるのではなく育てるものだということは、ネスレ本社からも言われていました。自分の後継者となるリーダーをつくれる人間こそ、真の経営者である。これは、ネスレにおけるリーダーの条件です。ネスレは実際、日本企業以上にサクセッション・プランが整っています。リーダーとして、イノベーターになりうる人材を発掘する「目」を養わせることが重要なのです。
そうしたリーダーを育てるためには、全従業員がイノベーションを起こそうと意識し、行動しなければなりません。自分自身がイノベーションを起こせる人間でない限り、それができる人かどうかを判断できないからです。アイデアの原石を見抜くことすら、できないはずでしょう。
私は、ネスレ日本の社長に就任してから「イノベーションアワード」という取り組みを始めました。イノベーションアワードでは、すべての従業員が自分の顧客の問題を発見し、その解決につながるイノベーションのアイデアを考え、実践します。そして、我々マネジメントは、それらをさらに大きなイノベーションになるよう磨き上げます。
似たようなことをやっている企業があるとは聞きますが、表彰だけして終わるものも多いですよね。イノベーションアワードは、机上のコンテストではありません。優れたアイデアを実践することでネスレ日本のビジネスを拡大し、同時にリーダーを育成することが目的です。
自分でイノベーションを起こせないなら、そうした人材を見抜き、育成することが大事ということですね。
その通りです。イノベーションアワードではそのために、イノベーションを見極める側の役員のトレーニングも行なっています。
従業員から提出されたアイデアは、部門ごとに集約されます。それを1つひとつ確認し、優れたアイデアを選抜するのは、各部門のトップである役員の仕事です。ただし、部下のアイデアを、そのまま発表してはいけないというルールを設けています。ダイヤモンドの原石のようなアイデアを見出し、磨き上げ、アイデアのレベルからビジネスとして通用するレベルまで昇華させたうえで、発表しなければなりません。原石をダイヤに変えて初めて、イノベーションを見抜ける役員として評価できます。もちろん、やり方を間違えば、ダイヤモンドの原石がただの石ころになるリスクもあります。
この取り組みが完全に回せるようになれば、評価する側もイノベーションにチャレンジした人になるため、イノベーターを見つけられる組織に生まれ変わると思っています。イノベーションアワードが完成すれば、非常に高いレベルの人事イノベーションになるはずです。私の中では、「ネスカフェ アンバサダー」よりも大きなイノベーションになるのではないかと期待しています。
人を育てるのは時間がかかります。とはいえ、喫緊の課題であることも確かです。どれくらいでの完成をイメージされていますか?
たしかに、人を育てるのは時間がかかります。私にも具体的な時期まではわかりませんが、少なくとも、以前より意識も態度も実績もよくなっていることだけはたしかです。ネスレ日本には、イノベーションを起こさなければならないというカルチャーが着実に根づいています。
また、次世代の経営を担う層は、イノベーションアワードを5年、10年と経験した人材になるでしょう。その中で、最優秀ではなくても賞くらいを取ったことがある人が役員になれば、アイデアを評価する役員のレベルも格段に上がるはずです。ただ、その時点でも完成とは言えないかもしれません。イノベーションアワードは、イノベーションを起こす土壌を豊かにし続けていく土台のような気がしています
中間管理職の成長も必要だと思えますが、彼らには何らかのトレーニングを行なっているのでしょうか?
ネスレ日本では、中間管理職をそれほど意識していません。彼らはあくまで、チームリーダーのような存在です。組織は、できるだけフラットのほうがいい。単なる管理者はいりません。だからこそ、イノベーションアワードは、中間管理職も含めた全員に義務付けています。
常に成長し続けなければならないという意味で、中間管理職には特に、かなり強いプレッシャーがかかっていると思います。中間管理職として大事なミッションは、自分のチームのアウトプットを、どれだけ高いレベルにできるかということです。
ただ、これから働き方はどんどん変わっていくでしょう。もうすでに、誰がどこでどのように仕事をしているか、そのプロセスが見えにくくなっています。そうなると、個人のアウトプットの質がより問われるようになり、管理者の必要性は低下します。
ネスレ日本に人材育成の仕組みをつくらなければならないという危機感は、どこから生まれたのでしょうか?
ネスレ日本の社長はこれまで、自分の出身国で働くことは許されない「インターナショナルスタッフ」が務めてきました。私はインターナショナルスタッフではありませんから、極めて例外的なケースです。私の次は、その流れに戻ることも十分に考えられます。でも、日本法人であるならば、日本をよく知る日本人のリーダーをつくりたいという想いがあります。そして、社長はイノベーションを起こせなくてはなりません。そうしてイノベーションアワードを考え、それを発展させています。
ネスレの歴史のなかで、現地の人間をトップに据えず、インターナショナルスタッフに任せてきたのは、新興国に優秀な人材がいなかったからです。日本はもはや、新興国ではありません。自国の人材に任せてもいい時期です。中国、インド、ASEAN諸国でも、欧米の大学で学んだ優れた人材が育ってきています。その新しい現実を考えれば、できるだけローカルの人間に任せるときが来たと思います。なぜなら、世界で活躍してきたインターナショナルスタッフでも、その国特有の問題や課題を発見する力では、優秀なローカルの人間に太刀打ちできないからです。
最後に、日本企業が変わるために何が必要なのか、あらためてお聞かせください。
失点をしないことで上がってきた人物をトップに据え続ける限り、日本企業は変われないでしょう。トップが変わらなければ企業は変われないというのは、まぎれもない事実です。会社の経営は社長で決まると言っていいほど影響力が大きい。ブレーンの能力が高ければいいという時代は、もう終わりました。
日本が新興国で人口も増えて右肩上がりの時代であればそのスタイルでやってこられたと思いますが、ほとんどの基本的なニーズが満たされたいま、トップに求められるのはイノベーションを起こす力です。そして、そうしたリーダーが社長にならなければ、会社は絶対に変われません。
【ワールド・マーケティング・サミット 東京 2017】
DHBRを定期購読されているお客様限定、通常価格32,400円が29,160円(税込)になる特別割引を実施!
日程:2017年12月8日(金)10:00~18:00
会場:笹川記念会館国際ホール(東京都港区三田 3-12-12)
登壇:フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授)、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、古森重隆(富士フイルムホールディングス代表取締役会長CEO)、ハワード・トゥルマン(1871社CEO)、サルバドール・ロペス(ESADEビジネススクール教授)、入山章栄(早稲田大学ビジネススクール准教授)、石山洸(エクサウィザーズ代表取締役社長)ほか
メディアサポーター:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューほか
詳細:http://wmsj.tokyo/
申込:お申し込みはこちらから。