1.不確実性へのリスクヘッジとなる

 家電量販店の老舗だったサーキットシティの末路は、記憶に新しい。ビデオレンタル大手のブロックバスター、書店チェーンのボーダーズ、老舗レコード店のタワーレコードなど、業界の旗手が倒産に見舞われた例はたくさんある。ロボット工学や人工知能(AI)が盛り上がりを見せるものの、どんな結果が、どのようなタイミングでもたらされるのかは予測できない。あなたの業界が、いつどんな打撃を受けるのかについても、予測は難しい

 実際、仕事の数は減少している。1948年から2000年まで、雇用は人口より1.7倍の速度で増加した。しかし2000年から2014年までは、人口のほうが雇用より2.4倍のスピードで増えている。現在、世界の労働力に占める米国人の割合は、過去40年の間で最も少ない。雇用をめぐる競争は、すでにグローバルなものとなり、仕事が見つけづらくなってきているのだ。

 そんないまだから、あなたの会社や業界が不測の事態に見舞われても、バックアッププランがあれば安心である。

 2.新しいスキルを学べる

 看護士としてキャリアをスタートしたレニー・アカンは、ニューヨークの病院ネットワークであるマウント・サイナイ・ヘルス・システムで、コミュニケーション部門を統括するまでに出世した。この珍しいキャリアの飛躍を、彼はどうやって遂げたのだろうか。

 アカンはテクノロジーとイノベーションに好奇心を抱き、みずから2つのiPhoneアプリを開発した。それを知って感銘を受けた上司は、アカンに病院のソーシャルメディアの運営を担当するよう提案した。この仕事をうまくこなした後、アカンは主席コミュニケーション役員に任命されたのだ。起業的な副業は、新しいスキルを学び、周囲と差をつける強力な方策といえそうだ。

 3.人脈をつくる

 成功したプロフェッショナルは強固な人脈を持っているものだが、本人と同じような人々、同じ会社や業界で働く人たちである場合があまりに多い。しかしStart Networking with People Outside Your Industry(他業種の人々との人脈づくりを)でも述べた通り、社会学者ロバート・パットナムは、健全な人脈ネットワークには「結束(bonding)」と「橋渡し(bridging)」という2つの側面、すなわち同種のグループと異種のグループの両方が必要だと主張する。

 農業において、単一品種の栽培(たとえばトウモロコシのみの栽培)には、景気の後退(誰もトウモロコシを買おうとしない)や、環境が悪化(予想外の疫病に襲われる)した際に大きなリスクを伴う。同じく、同種グループの人脈しか持っていないと、業界が破綻した際に危険なことになる。知人はみな、同業界にいた失業者ばかりということになりかねないのだ。また長期間、同じ物の見方ばかりに触れていると、思考の幅が狭くなってしまう。

 副業として何か事業を起こせば、中心となる人脈を犠牲にすることもなく、新しく楽しい方法で人脈を拡大することができる。それによって経済的な回復力も強くなり、あなた自身の価値も高まる。

 4.自分のブランド力を上げる

 副業として事業を立ち上げたりすれば、会社は嫌な顔をするのではないか……そう心配する人もいるかもしれない。しかし、それも昔の話になりつつある。

 有能な上級幹部は、起業のような実験は、自発的かつ先進的な思考の持ち主を見つけるカギとなることに気づいている。そしてアカンの上司と同じように、リーダーとしての潜在力を示すポジティブな特質と見なすだろう。実際、センター・フォー・タレント・イノベーションが行なった調査によると、誰もが自分を上のレベルへ引き上げてくれる、シニアレベルの「スポンサー(支援者)」を見つけることを願っていることがわかった。その優れた方法の1つが、自分のブランド力を強化することである。

 起業家であることは野心とイノベーションの証であり、この2つの特性は、たいていのリーダーを引き寄せる。

 5.収入を増やす

 起業的な副業がすべてうまくいくわけではないため、これを第一の目標にすべきではないだろう。しかしながら、試しに始めた副業が大きく羽ばたくこともある。

 パット・フリンはブロガーおよびポッドキャスターとして成功しており、Entrepreneurial You(未訳)でも紹介した人物である。2008年の不況で、フリンは建築事務所を解雇された。幸い、彼はその1ヵ月前に、最初の電子書籍(エコ建築の試験対策本)を売り出したばかりだった。これがすぐに注目を浴び、その月だけで7900ドル以上を手にしていたのだ。彼は失業した日のブログにこう書いている。「もしインターネットで得られる副収入がなかったら、解雇された時点で、将来についてこれほど楽観的にはなれなかったはずだ。たとえ仕事を辞めないとしても、2番目の収入源を持つことは間違いなく優れた安全弁になる」

 すでに中程度かそれ以上の収入を得ている場合、あなたにとって収入源を増やすのは最優先事項ではないと思うかもしれない。しかし、2001年に私自身が1週間分の退職金だけで突如新聞社に解雇されたときに感じたように、別のオプションを持っているのは心強いことである。

 現在の仕事が大好きで、ずっと続けていきたいと思っているとしても、ちょっとした起業精神は、あなたに新しいスキルを授け、視野を豊かにし、職場での存在感も高めてくれるだろう。


HBR.ORG原文 Even Senior Executives Need a Side Hustle, November 29, 2017.

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ドリー・クラーク(Dorie Clark)
マーケティング戦略のコンサルタント、講演家。デューク大学フクア・スクール・オブ・ビジネスでも教鞭を執る。著書に、Entrepreneurial YouReinventing YouStand Out(いずれも未訳)がある。無料のEntrepreneurial You 自己診断も受けられる。