2.経験と権力は自己認識の妨げになる

 一般的な通念に反する次のことが、諸研究から明らかになっている。

 人は経験から必ずしも学ぶわけではない。専門知識は、誤った情報を根絶する役には立たない。それどころか、自分は経験豊富であると見なしていると、事前の下調べ、反証的証拠の探求、自分の思い込みを疑ってみる、といった行為の妨げになるおそれがある。

 そして経験は、自分のパフォーマンスに対する誤った自信につながるだけでなく、自己認識のレベルについても過信を招きうる。たとえば、ある研究では、経験がより豊富なマネジャーは経験の浅いマネジャーよりも、リーダーシップ能力に関する自己評価の精度が低かった。

 ほとんどの人が、自分はみずからを把握していると信じているものの、我々の研究対象者で実際に条件を満たしているのは、わずか10~15%であった。

 同様に、リーダーの権力がより強いほど、みずからの技量と能力を過信する可能性が高くなる。さまざまな役職・業界のリーダー3600人超を対象としたある研究では、上位のリーダーは下位のリーダーと比べ、自分の技量をより過大に自己評価していた(他者からの認識との比較)。実際にこの傾向は、研究者が測定した20の能力のうち19項目で観察されている。ここには感情面の自己認識、正確な自己評価、共感、信頼性、リーダーとしての手腕などが含まれる。

 この現象について、研究者たちは主に2つの説明を提示している。

 第1に、上級リーダーは、その立場の高さゆえに、率直な意見をくれるさらに上位の者がそもそも少ない。第2に、リーダーが権力を行使すればするほど、他の者は当人に建設的なフィードバックを伝えたがらなくなる。自分のキャリアを損なうことを恐れるからだ。

 経営学教授のジェームズ・オトゥールによれば、人はみずからの権力が大きくなるにつれて、聞く耳を持たなくなっていく。自分は部下よりも多くを知っていると考えるため、あるいは意見を求めると、その分の代償として権力が減じるという認識があるためだ。

 だが、そうではないケースもある。ある分析によれば、リーダーシップ能力に関する360度評価で非常に高い評価を受けたリーダーは、上述の傾向に反して、(上司、同僚、部下、取締役会等からの)厳しいフィードバックを頻繁に求めていた。こういうリーダーは、その過程で自己認識を高めていき、他者からますます有能視されるようになる。

 我々のインタビューでも、同様のことが示された。

 外面的自己認識を向上させた人たちは「愛のある批評家」――当人のためを思って真実を伝えてくれる他者――からフィードバックを求めることで、それを成し遂げていた。彼らはまた、1人からのフィードバックに基づいて過剰に反応や修正をしないように、厳しい提言や予期せぬ意見をもらうと、他の人にも相談している。