1.自己認識には2種類ある

 過去50年間、さまざまな自己認識の定義が研究者の間で用いられてきた。たとえば、「自己の内面世界(思考と感情)を観察する能力」ととらえる人もいれば、「一時的に自己を強く意識している状態」だという人もいる。また、「自身が見る自分と、他者が見る自分がどれほど違うかを自覚していること」と説明する研究者もいる。

 このため我々は、自己認識の高め方に焦点を当てる前に、これらの見解を整合させて、包括的な定義をつくり出す必要があった。

 我々が検証した研究群を通じて、自己認識をめぐる2つの大きなカテゴリーが一貫して浮かび上がった。

 1つ目を「内面的自己認識」と名付けた。これは、自分の価値観、情熱、願望、環境への適合、反応(思考、感情、態度、強み、弱みなど)、他者への影響力について、自身がいかに明確にとらえているかを表す。内面的自己認識は、仕事や人間関係への満足度、自己および社会的コントロール、幸福に相関する。不安、ストレス、憂うつとは負の関係にある。

 2つ目のカテゴリーは、「外面的自己認識」だ。先に挙げた諸要素について、他者が自分をどのように見ているかに関する理解である。我々の研究によれば、自分が他者にどう見られているかがわかっている人は、共感力と、他者の視点に立つ能力に長けている。リーダーの自己認識と、リーダーに対する部下の認識が近いほど両者の関係は良好で、部下はリーダーに満足を感じ、リーダーを有能視する傾向にある。

 どちらか一方の自己認識が高ければ、もう一方も高いと考えられがちだ。だが我々の研究からは、双方の間にはほとんど関係がないことが明らかになっている。結果として我々は、リーダーシップの4つの原型を特定した。向上すべき部分はそれぞれ異なる。

 自己認識には内面と外面があるとなれば、人はどちらか一方をより優先したくなるものだ。だがリーダーは、みずからを明確にとらえることと、フィードバックを取り入れて、他者からどう見られているかを理解することの双方に、積極的に取り組まなくてはならない。我々がインタビューした中で、自己認識度の高い人は、両方のバランスを保つことを強く意識していた。

 マーケティングマネジャーであるジェレマイアの例を見てみよう。

 彼はキャリアの初期には、内面の自己認識に最大の重点を置いていた。たとえば、会計の職歴を捨ててマーケティングへの情熱を追うことに決めた。だが、会社のトレーニングで率直なフィードバックを受ける機会を得て、自分が他者にどう見られているかを十分に意識していなかったと気づいた。その後、ジェレマイアは、両面の自己認識を等しく重視するようになる。これにより、新たなレベルの成功と充実につながったと感じている。

 要するに、自己認識とは1つだけの真実ではない。それは異なる2つの、互いに矛盾さえもする見解の、微妙なバランスなのである(自分が各カテゴリーのどこに位置するのか知りたい読者の方は、我々が提供する複数評価者式の自己認識アセスメントの無料簡易版を参照していただきたい)。