3.内省によって、自己認識が必ずしも高まるわけではない
これも一般的な通念だが、内省、つまり自分自身の思考や感情や行為の原因を探ることは、自己認識を高めると考えられている。結局のところ、己を知るには、「なぜ自分はこうなのか」を省みる以上によい方法はないだろう、というわけだ。
けれども、我々の研究で最も驚くべき発見の1つとして、内省する人は自己認識度がより低く、仕事の満足度と幸福感も低めであった。別の研究も同様の傾向を示している。
内省の問題は、それが全面的に非効果的だということではない。ほとんどの人が、誤った方法で内省をしていることが問題なのだ。
このことを理解するために、内省でおそらくは最もよく使われる問い、「なぜ」について考えてみよう。人々はこの問いを、みずからの感情(なぜ私は、従業員Aのことが従業員Bよりもずっと好きなのか)、振る舞い(なぜ私は、あの従業員にカッとなったのか)、あるいは態度(なぜ私は、この取引にこれほど反対するのか)を理解すべく投げかける。
実は、自己認識において、「なぜ」は驚くほど非効果的な問いかけなのだ。
研究によれば、人は自分の無意識の思考、感情、動機を探ろうとしても、その大部分をそもそも知ることができない。そして、意識上で認識できないものが非常に多いため、人は「真実だと感じられる答え」をつくり出すことがよくあるが、それは往々にして間違っているのだ。
たとえば、新任のマネジャーが、部下に怒りをぶつけるという、彼女らしからぬ振る舞いをしたとしよう。彼女は自分が管理職に向いていないという結論へと飛躍するかもしれないが、本当の理由は重症の低血糖だったりする。
このため、「なぜ」を自問することの問題は、その答えがいかに間違っているかだけでなく、自分の正しさを過信してしまうところにもある。人間の思考が理性的に働くことはまれであり、判断にバイアスが伴わないことは少ない。人は何であれ「洞察」を見出すと、その妥当性や価値を問わずに飛びつきがちだ。相反する証拠を無視し、自分の当初の解釈に沿うように思考を進めようとする。
「なぜ」という自問によるもう1つの弊害は、非生産的なマイナス思考を招くことである。望ましくない出来事について考えるときは、特にそうだ。
我々の研究を通じ、非常に内省的な人ほど、あれこれ考え込んでしまいがちであることがわかった。たとえば、業績評価が悪かった従業員が「なぜこんなに悪い評価を受けたのだろう」と自問すると、自分の強みと弱みに関する理性的な評価よりも、自分の恐れ、欠陥、不安感に焦点を当てた解釈に至ることが多い(この理由から、頻繁に自己分析する人ほど憂うつや不安に陥りやすく、幸福感が乏しくなる)。
では、「なぜ」が内省の正しい問いかけでないとしたら、もっとよい問いはあるのだろうか。
私の研究チームは、自己認識度が高い人たちへのインタビューの記録を何百ページも精査し、別の内省方法がないか調べた。そして実際に、明らかな傾向が存在した。「なぜ(why)」という言葉の登場回数は150以下であったが、「何(what)」は1000回を上回っていたのだ。
したがって、生産的な自己洞察を増やし、非生産的な堂々巡りを減らすためには、「なぜ」ではなく「何」を問いかけるべきだ。「何」という問いは、客観性と未来志向を保つ一助となり、新たな洞察に基づいて行動を起こす後押しとなる。
たとえば、我々がインタビューしたエンターテイメント業界のベテラン、ホゼについて考えてみよう。
彼は自分の仕事を嫌っていた。多くの人はこの場合、「なぜ自分はこんなに嫌な気持ちになるのだろうか」という思考にはまるところだ。
だが彼は、こう自問した。「自分を嫌な気持ちにさせる状況は何だろうか。そのような状況に共通しているのは何だろうか」。これにより、彼はその仕事ではけっして幸せにならないと気づき、資産管理という分野で、はるかに充実感を持てる新たな仕事に就く勇気を持てた。
同様の例として、カスタマーサービスのリーダーに着任したばかりのロビンは、ある部下から受けたネガティブな意見について理解する必要があった。
彼女は、「なぜ私のことをそんなふうに言ったのか」と自問するのではなく、「よりよい仕事をするために、今後、私が取るべきステップは何だろうか」と問いかけた。これによって両者は、過去の非生産的な部分にばかり着目するのではなく、解決へと歩みを進めることができた。
自己認識は1つだけの真実ではない。それは異なる2つの、互いに矛盾さえもする視点の微妙なバランスだ。
最後に、ポールのケースを見てみよう。
彼は、最近買収した事業がもはや立ち行かないことを悟った。最初は、「なぜ立て直すことができなかったのだろう」と自問するばかりだった。だがすぐに、自分を責めることに使う時間とエネルギーの余裕などないと気づく。次に何をすべきか、答えを出さなければならない。
そして、以下のように問い始めた。「我が社の顧客と従業員への影響を最小限に抑える形で前進するためには、何をする必要があるか」。彼は計画を作成し、事業をたたむ過程で関係者にできるだけよい結果をもたらすための、創造的な方法を見出すことができた。
すべてが終わると、彼は経験から学んだことを言葉にしようと自分に課した。彼の出した答えは、将来の同じような過ちを避けるために役立っていると同時に、他の人々にも学びを提供している。
これらの定性的な知見は、他の研究者による定量的な研究によって裏打ちされている。ある研究のなかで、心理学者のJ. グレゴリー・ヒクソンとウィリアム・スワンはこんな実験をしている。
大学生の集団に対して、彼らの「社交性、好感度、人の関心を惹きつける力」に関する評価を実施し、ネガティブなフィードバックを与えた。数名に対しては「なぜ」自分がそのような人間なのかを考える時間を与え、残りの学生には自分が「何」か(どのような人間なのか)を考えるよう求めた。
そして、学生にフィードバックの正確性を評価させると、「なぜ」を考えた学生は、自分が知ったこと(ネガティブなフィードバック内容)に対する理由づけと否定に力を注いだ。これに対して「何」を考えた学生は、この新たな情報にもっとオープンで、そこから学ぶ姿勢を示した。ヒクソンとスワンは、いくぶん大胆にこう結論づけている。「なぜ自分はこうなのかを考えることと、自分をまったく省みないことは、何も違いがないのかもしれない」
上述したすべてを踏まえると、次の結論が導かれる。
リーダーが自己をより明確にとらえるスキルを身につけるには、内面と外面両方の自己認識を高めることを意識し、愛のある批評家からの率直な意見を求め、「なぜ」ではなく「何」を自問すればよい。自分についてより多くを知れば、そこから得られる恩恵も増える。
そして、人はどれほど進歩しようとも、もっと学ぶべきことが常にある。これこそ、自己認識への旅が大いに心躍る理由の1つであろう。
研究の概略
我々の研究の主要なポイントは以下の通りである。
・既存の800件近い科学研究の結果を分析して、過去の研究者による自己認識の定義を理解し、テーマと潮流を明らかにし、これらの調査の限界を特定した。
・国や業界をまたがって数千人に調査を実施し、いくつかの主立った意識・態度項目(仕事の満足度、共感、幸福、ストレスなど)が自己認識とどう関係しているのかを検証。また、調査対象者をよく知る別の人物にもアンケート調査を行い、「自分に関する自己評価」と「他者による評価」の関係を探った。
・7つの因子からなる、複数評価者による自己認識アセスメントを開発し、有効性を立証した。過去の研究には、強力で十分に立証された包括的な尺度が見当たらなかったためだ。
・自己認識を大きく向上させた50人に対し、掘り下げたインタビューを実施。そこに到達するのに役立った主な行動と、彼らの信念および実践事項について学んだ。インタビューの対象者には、起業家、専門職、企業幹部、そしてフォーチュン10企業のCEOまで含まれる。
我々のインタビューの対象者となるためには、次の4つの関門をクリアしていなければならない。
(1)当人が、自分の自己認識力はきわめて高いと見なしている(我々の検証済みのアセスメントを用いて判定)。
(2)対象者をよく知る人物が、同じアセスメントでそれに同意している。
(3)人生を通じて自己認識が向上していることを自覚している。各参加者に対し、人生のさまざまな段階から現在までの自己認識度を思い起こしてもらった(例として、青年期:19~24歳、成人期:25~34歳、中年期:35~49歳、熟年期:50~80歳)。
(4)その参加者を評価する他者が、(3)の回顧に同意している。
・数百人のマネジャーとその部下を対象に調査を実施。リーダーとしての自己認識と、部下の意識・態度(労働意欲、上司をどれほど有能と見ているか、仕事の満足度など)との関係について調べた。
本研究の共著者:ヘイリー M. ウォズニッチ(ロングウッド大学)、フェニックス・バン・ワゴナー(コロラド大学リーズ経営大学院)、エリック D. ヘゲスタッド(ノースカロライナ大学シャーロット校)、エイプリル・ブロダーセン(メトロポリタン州立大学デンバー校)。ステファニー・ジョンソン博士の貢献に感謝を捧げる。
HBR.ORG原文:What Self-Awareness Really Is (and How to Cultivate It), January 04, 2018.
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ターシャ・ユーリック(Tasha Eurich)
幹部人材を育成するザ・ユーリック・グループのプリンシパル。組織心理学者、研究者、著述家。著作はニューヨークタイムズ紙のベストセラーリスト入り。新著Insightでは、自己認識と職場での成功との関係について探求している。