この疑問を詳しく探るため、我々は舞台関係者を調査した。というのも、家族の世話も任されているフリーランスや新規ビジネス開拓担当のレインメーカーを対象として、キャリアの持続可能性について詳細を知るには、舞台が理想の現場と考えたからだ。パフォーミングアーツ(舞台芸術)のキャリアは、労働時間が不規則だし、各地を巡業することを求められる。
舞台に立つアーティストは知名度を上げる必要があり、高い知名度を獲得する唯一の方法は、さまざまなマーケットに顔を出すことだ。だが名声や知名度は、単にまめにあちこちに顔を出せば手に入るというものではない。アーティストの強みを広めてくれる人とコネクションをつくることも必要だ。
劇場の経営に携わる野心的な幹部の場合は、収益向上を追い求めるわけだが、度を超せばスケジュールが過熱状態になりかねない。クリエイティブな監督やプロデューサーは、劇場の芸術監督を目指して、ほとんどの場合はフリーランスとして働いている。彼らは、みずからを鼓舞し知名度を保ち続けるためには、演出やプロデュースの腕を常に磨いておく必要がある。リーダーシップへの野心がある人は、極めて重要な上層部のコネクションからのお墨付きがもらえれば、 認知度が信頼性となり、ひいてはリーダーに昇進するチャンスが高まる。
我々の調査の目的は、パフォーミングアーツの分野で女性が次長職の半数を占めているにもかかわらず、米国の大きな非営利の常設劇場を率いるトップに女性がほとんどいない(劇場経営陣に占める割合は30%未満)理由を明らかにすることだった。
まず複数のソースから、具体的には1300件を超える調査、300通の履歴書、無作為に選んだ劇場トップ100人とその次長とのインタビュー、および劇場の理事と人材紹介会社のヘッドハンティングのプロの追加インタビューから、データを収集した。これにより、キャリアの道や資格、スキル、そして劇場のトップに昇りつめるために必要な経験を類型化できるようになった。また、キャリアの道について男女の比較も可能になった。
女性は当初、家庭内での自分の責任や、家庭生活がキャリアの道に及ぼす影響について話そうとしなかった。インタビューを受けている間に、この話題をみずから持ち出した人もいたが、そのほとんどは自分以外の人について話している最中でのことだった。
たとえば、ある男性次長は女性の同僚について次のように語った。「家庭の事情を考えれば、彼女たちがその種のリーダーシップの役割を目指すとは思いません」。ある男性芸術監督によると、「多くの場合、少なくとも私がこれまでに聞いたところでは、芸術監督のほとんどが男性です。なぜなら、男性のほうが、はるかに動きがとりやすいからです。女性が家庭を持つことを望む場合は、その地域に留まることになり、フリーランスの仕事を多く手掛けたり、地元以外の地方の劇場で働いたりすることができなくなります」
この情報に基づき、我々はインタビューの質問を変え、どのようにキャリアと家庭での役割を両立しているのか、女性たちに正面から尋ねることにした。