この問題をオープンに提示すると、すぐにさまざまな話が寄せられた。回答者の話から、劇場で働く女性たち、特に母親たちが、家族の世話をする立場にあることを話したがらないのは、本業に十分に打ち込んでいないと見なされたり、より高いポジションに志願する際に公平なチャンスを得られなくなったりするのが怖いからだとわかった。「子どもができたら、女性は口をつぐむように訓練を受けます。なぜなら子持ちは不利になるからです。 仕事がもらえなくなります!」と、ある女性芸術監督は語気を強めた。
家族と暮らすには向いていない地域に送り込まれるから、あるいは引っ越しが必要になるからという理由で仕事を引き受けなければ、影響力のある劇場界のリーダーに出会う機会も減る。このように家族の世話をする女性は、適切なコネクションを築くことができず、したがってリーダーのポジションに昇進するチャンスを逸しかねない。
我々の調査に回答した女性のサブサンプル、具体的にはリーダーのポジションに志願したが果たせなかった女性たちは、トップに昇りつめられなかった原因を、幅広い経験および多様な劇場との出合いの不足に帰した。
家族の世話をする責任を受け入れる体制が整っていないことが、女性がリーダーに抜擢されない理由の1つになっている。同僚は、確認もせずに「家族の世話をする人はコストがかかる施設を必要としている」と見なしたり、「単に手が空いていない」と思い込んだりするかもしれない(「彼女は授乳中だから、これを頼むことはやめておこう」)。実際に何が必要なのかについて業界で議論がないことが、有能で野心的なプロフェッショナルたちの間でキャリアの低迷を引き起こし、ひいてはリーダーシップに占める男女の割合に大きな不均衡をもたらしている。
複数の調査によれば、常設劇場から公演の監督に招かれる頻度は、女性よりも男性のほうが高い。こうした招請が知名度を上げる。そして、高い知名度が親しみとリーダーたりうるとの信頼につながる。女性には、このような招請、出会い、そして信頼が欠けている。
劇場関係の職業人の極めて多くがキャリアの行き詰まりに陥っている現状は、他の分野の職業人にも当てはまる。フリーランスやコンサルタント、あるいは最近増えている、大きな収益を約束する新規ビジネス開拓担当のレインメーカーとして、予測不可能なスケジュールをこなしている職業人は、必要なときに子どもや老いた親の世話の手配を利用できず、それがリーダーシップ・ポジションへの昇進の障害になりうる。
ギグエコノミー(単発・短期で請負型の仕事が生む経済)の拡大は、リーダー志願者たちが家族の世話に(一時的に)従事しながら、キャリアを維持するのに必要なフレキシビリティを約束するように見える。しかしながら、ギグからギグへと単発・短期の仕事を次々に請け負うことは、演劇界で働く女性のフリーランスやレインメーカーがリーダーシップを目指す過程で、公平性を獲得する助けにはなっていないことを、我々のデータは明らかにしている。
その一方で、全米の劇場では、新たな権利擁護の取り組みが進行中だ。結局のところ、劇場のミッションはあらゆる声と人生の物語を舞台に上げることだ。演劇界におけるポジティブな成果が、パフォーミングアーツの枠を超えて、さまざまな業界で注目を浴びるようになることを願う。
HBR.ORG原文:Unpredictable Schedules Disproportionately Hurt Women’s Careers, January 08, 2018.
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ウェルズリー大学ウェルズリー・センターズ・フォー・ウィメンのリサーチ・アソシエイト。
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