真に掲げるべき基本理念を決める際には、自社の事業カテゴリーを考えることから始めるとよい。基本理念は、「カテゴリーの理念」――その分野に属する全企業が受け入れるべきもの――とは同じであってはならない。

 たとえば、どんなファストフード店であれ、スピードと利便性を具現化しなければならない。すべてのソフトウェア企業は、信頼性と使い勝手を重視しなくてはならない。あるファストフード店が「スピードを重視する」と表明しても、他のどのファストフード店とも何一つ違うことを言っていない。

 次に、会社の理念に独自性を持たせるには、それを表現する言葉や方法も独特でなければならない。使い古された言葉を基にするのではなく、似たような理念を持っているであろう他社とは、違う形で表現するのだ。自社を特徴的に表す文体やトーンを使おう。そうすれば、うわべだけの差別化を超えて、自社の精神や人間性を反映し、理念がいっそう際立つ。

 基本理念が特徴的な言葉やユニークな文体で表現されていなければ、従業員が、そのありふれた陳腐な理念に注意を払う可能性は低いだろうし、ましてやそれを大切にすることはないだろう。

 基本理念に独自性があるかどうかを測るテストとして、こう自問してみよう。その理念を、他社が自分たちのものとして掲げ、自社と同じようにそれを実現することはできるだろうか。

 多くの企業は、基本理念として「情熱」「イノベーション」「思いやり」を掲げる。そしてこれらの理念を、期待された方法で日々体現している。新製品を開発したり、思いやりを持って顧客に接したりするなどだ。

 しかし、理念の1つが「サービスを通じて、WOW(驚嘆)を届けよう」だったらどうだろう。これはザッポスの理念だが、自社ならではの主張になっている。「WOW」によって、組織の人間性と精神を伝えているのだ。この文言によって社員は、求められる以上のサービス、直感的で感情的な反応を呼び起こすサービスを届けなければならないと理解する。顧客も、そのようなサービスを受けることを期待する。

 あるいは、こうも自問してみよう。自社の基本理念と正反対のものを選ぶ他社はあるだろうか。

 企業によっては「完璧よりも完遂が大事」という立場を取る。多くのスタートアップ企業は「とにかく出荷しよう」という理念を重んじる。あらゆるバグを解消するより、製品を素早く市場に投入するほうが重要だと考えているからだ。 

 かたや、グーグルのような企業は「“素晴らしい”では足りない」という信念を持ち、卓越への努力を重んじる。どちらの視点も妥当であり、さまざまな組織が大切にしている。もし自社と真逆の理念が、他の企業にとって魅力的または有益なものならば、自分たちの選んだ理念は会社を大いに差別化してくれるだろう。

 あらゆる組織に適した一揃いの理念など、存在しない。

 あるべき基本理念とは、全社員に共有してほしい姿勢と信念を表現するものだ。そして、それらを具体的な行動や判断にどう反映すべきかを示すものだ。ひいては、そうした行動が顧客体験をいかに形成し、自社のブランドを定義して差別化するのかを表すものだ。基本理念に必要なものは、独自性なのである。


HBR.ORG原文:Ban These 5 Words From Your Corporate Values Statement, February 05, 2018.

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デニス・リー・ヨーン(Denise Lee Yohn)
ブランドの構築とポジショニングの第一人者。25年にわたり数々の世界的企業を支援。顧客企業にはソニー、日立、フリトレー、バーガーキング、ノーティカ、アシックス、ニューバランスなどがある。著書にWhat Great Brands Doなどがあり、最新刊はFUSION