取締役会の行動、ダイナミクス、自己認識はどれも重要

 取締役会が高い成果を上げる方法をさらに広く理解するため、より分析範囲を広げ、取締役会の成果に関する3つの要素を詳しく検討した。すなわち、取締役会の総合的な影響力、取締役会が個別的な関連課題(リスク管理等)をどのように遂行しているか、そして取締役会の運営である[注4]

 総合的な影響力のレベルおよび個別業務のレベル両方への回答を検討したのち、分析の結果として3タイプの取締役会 ―― 無効型、自己満足型、発展型の取締役会が導き出された[注5]

 無効型の取締役会

 無効型の取締役会に所属する取締役は、その他の類型に属する取締役に比べて、長期的な価値創造に対する総合的な影響力、ならびに調査対象である37項目の個別業務の両方について、最低の有効性を報告した。

 取締役会は一部の業務をまったく履行していない、と回答した者も相当の割合に上った。たとえば、回答者の70%は、会社のリスク管理の方法について経営陣と一致していないとした。また、遂行している業務のうち、1つにでも取締役会が手腕を発揮しているとした取締役は少数派だった。

 無効型の取締役会が最もうまくやっているのは、経営陣の確保および査定である。回答者の44%は上層部の業績を経営陣と効果的に協議しているとし、42%は幹部候補の人材について、後継者のパイプラインを定期的にうまく評価することができていると回答した。

 取締役会の運営に関しては、役員会義において信頼と敬意の文化を感じる、あるいは取締役がみずから情報を求めていくとした割合は半数未満となった。取締役が着任にあたって十分な研修を受けているとした者は1%にすぎない。

 自己満足型の取締役会

 対照的に、自己満足型の取締役会に所属する取締役は、総合的な貢献度をはるかに肯定的に見ている。半数近くが、所属する取締役会には、長期的な価値創造に対する非常に高い影響力があるとしており、これは3タイプの取締役会のうち最大の割合である。

 だが、37項目の具体的業務の履行に関しては、回答者の過半数が有効性を認めたのは、経営部門に財務成績を評価させること、会社の総合的な戦略の枠組みを設定すること、そして経営陣の戦略を正式に承認することのわずか3項目だった。

 組織の健全性と人材管理は際立った弱点であり、自己満足型に所属する取締役で、たとえば、随時就任できるCEO後継者を確保している点で有効性を評価したのは、わずか9%である(図表4)。ただし、無効型と比べれば、これらの取締役会は信頼感とチームワークがより強い。自己満足型に所属する取締役の3分の2は信頼と敬意の文化があるとし、約半数はチームの構築に十分な時間をかけているとした。

 一方で、フィードバックの活用には苦労している。個人的に、または取締役会として、正式な評価に定期的に関与している、あるいは会長が会合後にその他の取締役からのインプットを求めるとした取締役は5分の1未満だった。

図表4

 
 発展型の取締役会

 発展型の取締役会は、3つの中で最もバランスが取れている。総合的な影響力を非常に高いと評価した取締役は、自己満足型の44%に対して、わずか26%である。しかし具体的業務では、すべての項目において他タイプより大幅に高い有効性を報告しており、発展型取締役会の回答者の少なくとも半数は、37項目のうち30の業務で手腕を発揮していると述べた。

 特に優れていると評価したのは、戦略および業績管理である(図表5)。たとえば、発展型の回答者の69%は、継続して戦略の調整を効果的に行っているとするが、同様の回答は自己満足型ではわずか35%、無効型では2%である。

図表5

 発展型の取締役会は運営においても優れている(図表6)。これらの取締役はきわめて強力な信頼と敬意の文化があると回答しており、取締役会メンバーと経営陣は建設的に反対意見を出し(76%の回答、対して自己満足型では53%)、会長は会議をうまく運んでいるという。

 フィードバックについても、発展型の取締役会が抜きんでているもう1つの分野である。発展型に所属する取締役は自己満足型に比べて、取締役会が定期的な評価を実施しているとする回答率が2倍以上高く、会合後に会長がインプットを求めるとする回答率は3倍以上である。

 ただし、発展型の取締役会も向上を図る点があるという意味で大きな将来性を秘めている。これらの取締役のうち、取締役会で定期的な自己評価を行っているとするのは3分の1にすぎないからだ。

図表6

 最後に、発展型に所属する取締役は、その他に比べてずっと多くの時間を仕事にあてており、平均して年41日を取締役会の業務に費やしている。自己満足型では1年当たりわずか28日であり、取締役会の業務に32日をあてていると報告する無効型よりもさらに少ない。

将来に向けて

●取締役は、その活動にさらに時間を費やすべきである。今年の調査結果は、取締役が取締役会の業務に費やす時間は、前回調査に比べてすべての分野で増加していることを示している。発展型の取締役会は、すでに1年当たり41日を充て、もっと増やそうという意欲はない。平均的な取締役会の構成員は33日で、理想的にはあと5日増やしたいという。だが、私たちの経験では、多くの取締役はその職務に年50日、またはそれ以上を費やしており、その理由は法規制による要請、または、よい仕事をするには単純に当初想定していた以上の時間がかかることによる。

●信頼と挑戦的な議論のバランスを図る。調査結果によれば、最も有効でバランスの取れた取締役会には、最も強力なダイナミクスがある。健全な取締役会には、信頼と敬意の文化が欠かせない。だが、取締役と会社の首脳陣が反対意見を出し合う環境も同じく欠かせない。したがって、発展型に所属する取締役が、これらの特性を最も高い割合で報告しているのは、偶然ではない。しかし、すべての取締役会は、活動の仕組みに関するその他の要素、たとえば就任時の研修の強化、そして定期的な評価の実施について改善する余地がある。後者を——発展型の取締役会ですら——報告した回答者は、過半数に満たない。

●意欲的な会長を任命する。取締役会のダイナミクスの向上、そして取締役会の向上に向けて、もう1つの重要な要素は、会議をうまく運び、信頼と建設的な議論の文化を構築し、研修と人材開発、フィードバックに注力する有能な会長である。優れたリーダーシップは取締役会に全体としての方針を示し、より効果的で価値を高める取締役会に向けた基盤を整えることができる。


[注1]オンライン調査は2015年4月14日から24日まで配布され、あらゆる範囲の地域、業種、企業規模、および役職を代表する取締役1119人から回答を集めた。回答者の23%は会長である。回答者には最もよく知っている1つの取締役会に関して、すべての質問に回答するよう求めた。回答率の誤差を調整するため、データは世界のGDPに対して回答者の国が占める割合に応じて加重算出した。
[注2]今年は回答者に対し、取締役会の決定および活動が会社の長期的な価値創出にどの程度影響したかを質問し、36%が非常に高い影響力を報告した。2013年には、取締役会が会社の総合的な経済的成功に及ぼした影響力について質問し、30%が影響力は非常に高いと述べた。
[注3]「組織の健全性」は明確なビジョン、戦略、そして文化に沿って一致を図り、卓越性をもって履行し、市場トレンドに対応して時間の経過とともに組織の重点を新たにする能力を指す。組織の健全性に関する詳しい情報は、スコット・ケラー(Scott Keller)およびコリン・プライス(Colin Price)、「組織の健全性:究極の競争優位性(Organizational Health: The Ultimate competitive advantage)」、マッキンゼー・クォータリー、2011年6月、mckinsey.com、およびアーロン・デ・スメット(Aaron De Smet)、ビル・シャニンガー(Bill Schaninger)、マシュー・スミス(Matthew Smith)、「組織の健全性の隠れた価値とその入手法(The hidden value of organizational health—and how to capture it)」、マッキンゼー・クォータリー、2014年4月、mckinsey.com参照。
[注4]第1に、回答者には会社の長期的な価値創出に取締役会が及ぼす総合的な影響力の評価を求めた。第2に、戦略、業績管理、投資およびM&A、リスク管理、組織の健全性と人材管理、そして株主およびステークホルダーの管理に関連する取締役会の活動37項目の評価を求めた。第3に、取締役会の文化、情報管理、研修、評価に関する12の側面で、所属する取締役会に当てはまる表現はどれか質問した。
[注5]クラスター分析には、年間収益1億ドル以上の民間セクター企業の取締役会に在籍する、取締役の回答のみを含めた。この分析に採用された回答者316人のうち、6.3%が無効型の取締役会、38.6%が自己満足型、55.1%が発展型に所属する取締役である。
 

当調査の実施・分析には、マッキンゼー・アンド・カンパニー・ロンドンオフィスのディレクター、コナー・キーホー(Conor Kehoe)、オスロオフィスのプリンシパル、フリットヨフ・ルンド(Frithjof Lund)、チューリッヒオフィスのスペシャリスト、ニナ・シュピールマン(Nina Spielmann)が関与した。(注:執筆当時)上記の担当者は、チンタ・バガット(Chinta Bhagat)およびマーティン・ハート(Martin Hirt)の本論文に対する寄与へ感謝する。

※本稿は、McKinsey.com 2016年2月掲載記事を翻訳したものです。原文は下記よりご参照ください。

原文:https://www.mckinsey.com/business-functions/strategy-and-corporate-finance/our-insights/toward-a-value-creating-board

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