目標を整理する
効果的な学習とは、ある意味、プロジェクト管理だといえる。専門分野を開拓するためには、学習したいことについて達成可能な目標を、まず設定する必要がある。その後、目標に達する助けになる戦略を策定するのである。
学習への的を絞ったアプローチは、専門知識の習得に関して、ふとわき上がってくる疑念に対処する助けにもなる。自分には十分な実力があるのだろうか。失敗するのではないだろうか。間違っていたらどうしよう。もっとすべきことが他にあるのではないか……。
そんなふうに、誰でも自分で自分のあら捜しをするものだが、スタンフォード大学名誉心理学教授のアルバート・バンデューラによれば、この種のネガティブな感情に囚われると、新しいことを学ぶ能力がたちまち損なわれるおそれがあるという。また、明確な目標がある計画を策定すれば、コミットメントもより深くなる。
この点を示す研究結果は多数ある。つまり、「いい仕事をしよう」という漠然とした願望しか持っていない人に比べて、明確な目標のある人のほうがより高い成果を上げると、諸研究が一貫して示しているのだ。目標を設定すれば、自分の感情を比較的容易にコントロールできるようになり、学習することで進歩を遂げられる。
考えることについて考える
メタ認知は学習能力に不可欠だ。メタ認知とは、心理学用語としては「考えることについて考えること」であるが、広義では「自分が知っていることを、どのように知っているかについて、より詳細に検討すること」を意味する。
要するに、次のように自問することだ。自分はこのアイデアを本当に理解しているか。友人に説明できるだろうか。目標は何か。背景知識がさらに必要だろうか。それとも、実践がさらに必要か。
訓練を積んだ専門家の多くにとって、メタ認知は習い性になっている。問題に取り組むとき、スペシャリストは多くの場合、その問題をどのように定義するかについて、じっくり考える。彼らは往々にして、自分の答えが妥当かどうかを、きちんと判断できる。
ここで極めて重要なことは、この種の「考えることについて考えること」を、専門家の特権にしないことだ。学習に関して最大の問題の1つは、一般の人がメタ認知を十分にしないことだ。たいていの人は、スキルやコンセプトを本当に自分のものにしたかどうか、立ち止まって自問したりはしない。
したがって問題は、右の耳から入ったことが、左の耳から抜けていってしまうことではない。思考することを思考しないことが、問題なのだ。自分の思考を突き詰めて考えようとしないのである。
学んだことを熟考する
学習には、多少矛盾するところがある。学んだことを理解するために、いったん学習から離れる必要があることが明らかになっているのだ。
問題から距離を置いているときに、問題について理解を深めることはよくあるだろう。たとえば、同僚と議論を始めたとき、相手を説得できる主張が浮かぶのは、後になって皿洗いをしている最中だったりする。ソフトウェアのマニュアルを読んだとき、内容が十分に理解できるのは、マニュアルを閉じた後だったりする。
要するに、学習には熟考が有効なのだ。この種の熟考には、一時の静穏が必要である。もしかすると、奥まった場所で静かにエッセーを書いている最中、あるいはシャワーを浴びながら独り言を言っている最中に、その静穏は訪れるかもしれない。ただし通常は、集中して熟考するには、ちょっとした認知的静穏、一時の沈思黙考が必要だ。
睡眠は、そのための非常に効果的な一例だ。うたた寝や熟睡している最中に、知識を整理できる。最近のある研究によれば、質の高い睡眠には、学習のための練習時間を50%短縮する効果がある。
また、この認知的静穏という着想を用いれば、ストレスを感じていたり、怒っていたり、孤独にさいなまされているときには、スキルを修得することが極めて困難になる理由も説明しやすくなる。
感情が頭の中を駆け巡っているときは、慎重に検討して、熟考することができない。たしかに、追い詰められているような状況でも、電話番号を覚えるといった類の基本的なことは学習できるかもしれない。だが、深い理解を伴う学習のためには、精神的に平穏な状態にあることが必要だ。
まとめると、個々人にとっても、従業員が本領を発揮できるように支援しようとしている企業にとっても朗報は、学習が習得する能力であることだ。理解が早いのは、居合わせた人たちの中で最も知能指数が高いからではない。学習方法を会得した成果なのである。
学習目標を計画的に立て、考えることについて考え、そして学んだことを適宜熟考すれば、あなたも学び上手になれる。
HBR.ORG原文:Learning is a Learned Behavior. Here’s How to Get Better at It. May 02, 2018.
■こちらの記事もおすすめします
自己学習の効果をより高める4つのポイント
「小さな報酬」が学習のモチベーションを高める
「学ぶ姿勢」を学ぶ
脳は死ぬまで鍛えられる
ウルリッチ・ボーザー(Ulrich Boser)
センター・フォー・アメリカン・プログレスのシニア・フェロー。同センター内にあるザ・サイエンス・オブ・ラーニング・イニシアティブの創設者兼執行者でもある。著書にLearn Better(未訳)がある。