本社に戻って
ノエルはリトルロックから戻った翌日の朝、またもや誰もいない会議室で、今回はキャメロンとダグを待っていた。数分後、2人は一緒にやって来た。
「出張はどうでした?」と、キャメロンが尋ねた。
「憂うつでした」と、ノエルは答え、マーシャルとの話し合いについて詳しく語った。
キャメロンは苛立たし気に首を振りながら言った。「いまは誰にとっても苦しい時期です。我が社の他の施設も危機的状態を経験しているが、リトルロックほど悪い方向に進んでいるところはない」。彼は一息ついて言った。「我が社は依然として、FBホールディングスからの厳しい監督下にあります。事態を正常化するには、解雇がいちばんの選択肢かもしれませんね」
ノエルはダグと視線を交わした。彼は、フランクリンの財務基盤が改善したいま、さらなる解雇には断固として反対していた。ノエルは、そのことを知っている。
「財務的に見れば人員削減は必要ないことは、わかっていますよ。でも、職場文化の問題として、処分を断行すべき時かもしれない」。キャメロンは続けた。「マーシャルのような人材――施設全体に悲観的な空気を広める監督者を、抱えることはできません。会社の将来に対して前向きな人材が必要なんです。戻らない過去にとらわれている人ではなく」
ダグが口を開いた。「失礼ですが、私は同意しかねます、キャメロン」。ダグは、CEOが耳にしたいことだけを述べるような人物ではなかった。
「この人たちは、会社が最悪のときについてきてくれました。正しい施策を打てば、彼らの気持ちを取り戻すことは可能です。これ以上の解雇は、特に我が社が再び稼げているいまやれば、事態を悪化させるだけでしょう。それに、従業員をそんなふうに扱う会社に、誰が入りたいと思うでしょうか。辞めさせようとしている、熟練した――たとえ労働意欲はなくても――スタッフたちに替わる、十分な数の人材をどうやって見つけるのでしょうか。
それから、私がお見せした調査結果を思い出してください。大量の従業員を解雇する会社は、解雇しない会社と比較して、破産の申し立てをする傾向が2倍高いんです」
「でも、ノエルの話はさておき、あなたのエンゲージメント調査からは、事態がますます悪化していることが示されていますよね」と、キャメロンは応じた。「だから私は、うまくいく方法を探すのに苦労しているんです。我が社は依然として、運営上でも財務上でも、必要な水準まできていない。もしかしたらそれは、会社の足を引っ張る人があまりに多いからかもしれない。私たちは、手術台の上で血を流している患者を前にした、外科医みたいです。ともに手をたずさえて、神に救いを求めますか? それとも、みずからメスを手に取りますか?」
ダグは主張を曲げない。「ノエル、私が間違っていたら訂正してください。出血は止まったと私は思います。ですからいまは、患者は手術室から集中治療室に移り、回復のための手助けを必要としているんです」
ダグが答えを求めてノエルを見るので、彼女はようやく口を開いた。
「我が社が安定してきたというのは正しいわ、ダグ。でも、私がアーカンソーで目にした事実を踏まえると、患者は明らかにまだ危機を脱してはいません」