文化を改革すべきか

 次の土曜日、ノエルは友人のジョスと、2人の自宅近くの貯水池で会っていた。2人は一緒にビジネススクールに通い、2人ともオーロラ市に住むことになったため、しばしば仕事上の助言を求めてお互いを頼っていた。ジョスは建設会社のCOO(最高業務責任者)として、事業再生を成功させており、フランクリン在籍中のノエルには特に力になっていた。

 池の周囲約8キロのルートを2人で歩き出しながら、ノエルはリトルロックの状況と、キャメロンとダグとの最近の議論について説明した。

「『悪い芽を刈り取る』ことについて、たくさん話したわ。知っていると思うけど、うちはこれまでに、たくさんの人たちを解雇してきたの。でも、おかしなことに、最悪にやっかいな人たちがいなくなった後も、士気は低いままなの」

「有害なのは、人ではないよ」と、ジョスは言った。「悪いのは、職場文化なのよ。だから、どんなに困難でも、そこをまず直す必要があるね。私が一緒に仕事をしたコンサルタントの名前は、あなたにあげたよね?」

「うん、ダグと私は、問い合わせの電話もしてみた。でも、彼らと仕事をする案を私たちがキャメロンに話すと、彼はいつも却下するの。いま我が社にコンサルタントを雇う余裕はないと言って。たしかにそれも正しいわ。うちの損益は、問題の修正にお金を使うよりも、間接費を減らし続ければ、上向きになるはずだし」

「我が社にとっては、いままでで最善のお金の使い方だったわ」と、ジョス。「文化の改善は、たしかにすごい苦労した。たしかにすごい時間がかかった。ほとんどの時間は、『ディルバート』(会社風刺漫画)の世界に生きているかのように感じられたわ。でも、従業員の態度は本当に良くなったし、業績も上向きになったのよ」

「私には財務の仕事でやることがたくさんある。そもそもこの件にどうして自分が関わっているのか、わからない。でも私は、経営陣が従業員を見捨てようとしていて、その正当化のために私が出した数字を利用するという感じがして、それが嫌なのよ」

 ジョスは言う。「オペレーションの質が高い会社に戻すためには、何百人という従業員の集中力とエネルギーが必要になるの。もう1回リストラして、なんとか奇跡的に労働意欲を持ち続けている、限られた数の優れた人材に頼ればいい――キャメロンがそう考えているのなら、考えが甘いわ」

「探せば見つかるものなら、リセット・ボタンが欲しい」と、ノエルは言った。

「残念ながら、職場文化については、そんなものは存在しないわ」

問題:ノエルは、解雇を支持すべきか、それとも職場文化の変革を提唱すべきか。


HBR.ORG原文:Case Study: Can You Fix a Toxic Culture Without Firing People?  August 22, 2018

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フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)
行動科学者。ハーバード・ビジネス・スクールのタンドン・ファミリー記念経営管理論講座教授。著書にRebel Talentおよび『失敗は「そこ」からはじまる』がある。