テクノロジーによる市場の再編

 需要側では、テクノロジーは消費者に、かつてないほどの力を与えている。消費者は利用できる選択肢について膨大な情報を持ち、ニーズが満たされなければ、いとも簡単に供給業者を乗り換えることができる。また、多くの人は要求が高くなっている。特定のニーズや状況に合わせたニッチな商品を探すことがはるかに容易となり、標準的な大衆市場向けの商品で我慢しようという気がなくなっているのだ。

 供給側にとってのさらなる課題は、人々が所有モデルから従量課金モデルに移行しつつあることだ。利用状況を監視する技術によって、製品やサービスを実際に使った分だけお金を払うことが可能となったためである。

 たとえば、いくつかの保険会社は自動車の診断ポートに小さな無線デバイスを接続し、走行距離に基づいた保険料の支払いを可能にしている。このため、たまにしか車に乗らない人は、もっとひんぱんに車を利用する人々の保険料を賄うことなく、手頃な価格でフルカバーの保険をかけることができる。人々は、形ある製品への出費を減らす半面、人生を豊かにしてくれる有意義な体験に目を向け、お金を投じる傾向が高くなっている。

 広告ブロック機能のようなテクノロジーを使って、広告の洪水を避けている人も多い。したがって、企業は注意を引くために消費者に介入するのではなく、消費者が探し求めたくなるほどの充実した価値とサポートを提供する必要がある。

 たとえば、ある調査によると、米国のインターネット利用者のうち広告ブロック機能を使っている人の数は、2014年から2018年の間にほぼ倍増し、利用者全体の3分の1近くに達している。広告ブロック機能の利用は、もっと根本的なトレンドを示す1つの兆候だ。それは、企業に限らずあらゆる機関に対する、信頼の低下である。機関は自分にとって有益ではない、と考える人が増えているのだ。

 供給側では、概してテクノロジーは製品オプションの拡大と、製品ライフサイクルの短縮に寄与している。

 積層造形(3Dプリンティング)のような技術により、小規模なオーダーメード製品の製造が容易になることが多い。大がかりな製造施設をいまだに必要とする製品の場合でも、小さな供給業者は大規模な委託製造業者と容易に連携し、製造活動を遠隔で調整することができる。

 さらに、新製品の選択肢が急激に広がり、消費者が入手できる情報が増えたことも、製品ライフサイクルの短縮につながっている。新製品がより迅速に市場に投入され、従来の成功している製品に挑むからだ。

 その結果、何が起きているのだろう。ますます多くの市場において、標準化された大衆市場向けの製品・サービスは、高度にカスタマイズされた創造的な製品・サービスへと急速に取って代わられようとしている。

 消費者とは、見分けのつかない「顧客」という一群ではなく、進化する個々のニーズを持った1人ひとりの人間であり、それらのニーズを理解して対応できるかが、自社の成否を左右する――この事実を、供給側はますます意識させられているのだ。消費者を広告で邪魔するのではなく、その高い有益性が口コミとなり、消費者から求められるような企業にならなければならない。