アイデンティティは、2つの面で好奇心に影響を及ぼす。

 第1に、個人のアイデンティティは単一的なものではなく、多様な興味の集合体だ。たとえば、あるコンピューター・プログラマーは、職場の外では自分を「アウトドア愛好家」や「親」、または「地域ボランティア」と認識しているかもしれない。それぞれの興味によって探求意図のあり方は異なるため、同一人物でも何に興味を持っているかによって、好奇心の程度も変わってくる。

「コンピューター・プログラマー」が担っている仕事は、疑問や好奇心を抱く余地がほとんどなく、1つの任務を遂行することかもしれない。一方で、同じ人物の「アウトドア愛好家」というアイデンティティは、新しい場所でハイキングをしたい、といった探求心を持ち合わせているかもしれない。

 リーダーはこの洞察を活かし、社員に各自の興味を仕事に持ち込むように促すとよい。そもそも英語の「好奇心」の語源は、ラテン語の「関心を持つ」という言葉である。結局のところ、人は関心がなければ、疑問も持たないのだ。

 第2に、アイデンティティは好奇心を正当化する。ノーベル賞受賞者の自伝にはしばしば、先生や両親、尊敬する指導者などに、自分の好奇心を認められたときの出来事が記されている。

 たとえば、アフリカ系米国人女性で初の宇宙飛行士となったメイ・ジェミソンは、子どもの頃から常に好奇心が強かったと述べている。好奇心の「エネルギーを失わずに済んだ」一因は、ベル研究所での夏のインターンシップで、好奇心がさらにかき立てられたことだという。

「好奇心を刺激して高めることは、企業が果たせる役割だと思います」とジェミソンは語っている。好奇心がひとたび個人のアイデンティティの一部になれば、現状を覆すような疑問を投げ掛ける権利があると感じるものなのだ。

 好奇心は、社員が仕事にいっそう意欲的に取り組み、アイデアを新しく生み出し、それを他の社員と共有するための一助となる。我々のデータは、そのことを強く示唆している。何しろ、職場で非管理職者が好奇心を感じているとき、その73%が「アイデアをたくさん共有している」「会社のために新しいアイデアを生み出している」と答えているのだ。

 成功する組織は好奇心に支えられている。新しいアイデアを生み出し、組織に価値を付加するために、あらゆる階層の社員が必要としている環境がある。好奇心を抱き、新しい情報を探して吸収し、新たな人間関係を構築する――これらができる環境だ。

 組織内で、好奇心の価値をめぐってリーダーと社員の間でズレがあると、新鮮な情報が入ってこなくなる。好奇心を抑制している社内の障壁に経営陣が気づき、好奇心が広く刺激され高まるシステムを構築しない限り、みずからが築いた牢獄に囚われたままとなるのだ。

 その檻の中で、彼らはこう信じ続ける。リーダー自身が自由に好奇心を発揮できるのだから、他の全社員も同様に、何にも妨げられず好奇心を発揮しているはずだ、と。


HBR.ORG原文:Research: 83% of Executives Say They Encourage Curiosity. Just 52% of Employees Agree., September 20, 2018.

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スペンサー・ハリソン(Spencer Harrison)
INSEADの組織行動学准教授。子どもの頃から漫画を描くのが好きだった彼は、子どもたちのために物語を創作し、「パズル」という言葉を動詞として使うことを好む。主な研究分野は創造力、および人間と仕事の関係性について。フォローはLinkedin @curiosityatwork。

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