特定の社会課題の解決や新しい社会のビジョン実現を、どのようにしたら意図的に起こせるのか。その方法論を示した「ソーシャルイノベーション」(社会変革)の分野がいま、NPOや公的セクターだけでなく、企業からも注目を集めている。社会課題の解決を目指すことで、企業の社会的責任を果たせるだけでなく、成熟した市場において新たなニーズを発見できたからで、経済的な価値の創造へとつながるのだ。本稿は、ソーシャルイノベーションの系譜をたどりながら、企業とNPO、行政などが共通のアジェンダを設定し連携して課題解決に当たる、新たなアプローチ「コレクティブ・インパクト」の実践方法を提示する。

なぜいま、ソーシャルイノベーションなのか

 街中や駅前で『ビッグイシュー日本版』という雑誌を販売する人の姿を見たことがあるだろうか。これは、ホームレスの自立を目的とした「ビジネス」である。

 この特徴は、雑誌の定価の50%以上が、販売者の収入になることにある。雑誌が1冊売れれば、手元にどの程度残るかがわかるため、彼らにとって家賃の支払い目標ができる。家賃が支払えれば、住所が手に入り、就職活動を行いやすくなる。「自立」への第一歩となるのだ。