これを受けて、私は、ビジネス界に警告を発したい。
どんな組織も価値観の変化を避けることはできない。歴史的に、サプライチェーンで奴隷労働や児童労働を使ったり、オフィスで蔓延するセクハラ行為に見て見ぬ振りをしたり、河川や空気を思うがまま汚染したりすることが、一般的に許された時代があったのを忘れないでほしい。
現在、どの問題も根絶されているわけではないが、ビジネス界でこれらを許容すると言う人はほとんどいないだろう。モラルが変わり、その後に法律が変わったのだ。
排出ガスの削減や再生可能エネルギーの購入などを大企業が宣言することが一般的になり、気候変動に対策を講じようとする経営幹部は、たしかに増えているように見える。しかし、次世代の顧客と社員がこうした取り組みで十分に満足するかどうかは不明瞭だ。実際のところ、環境について明確に語るより、人種や移民の問題、銃による暴力、トランスジェンダーの権利について態度を公にするほうが、企業にとっては楽なようだ。
しかし、変わるべきときは、いまなのだ。米上院議員のシェルドン・ホワイトハウスの言葉を借りれば、いまこそ「企業の善良なる経営者」は「議会を訪れ、気候変動対策について陳情」すべきである。州と連邦政府の権力者たちに、積極的な方策を促すCEOが必要である。
もちろん、これは目新しいアイデアではないが、気候変動に関する陳情活動の歴史は乏しい。
数少ない熱心なNGOが「ワシントン詣」を主催し、超党派による気候変動への解決策を常に望んでいる。しかし現実には、わずかな例外を除き、そこに参加しようとするのは比較的小規模な企業だけだ。
大企業は、「We Are Still In(われわれはパリ協定に残る)」といった声明書には署名する。これはよいスタートだが、求められている変化のレベルに対しては不十分だ。みずから努力やリソースを注ぎ、もっと発言し、積極的になる必要がある。
具体的には、「この対策は高額すぎる」とか「気候変動はでっち上げだ」と言う政治家たち――大統領をも含む――に異を唱えることだ。実際に最近の調査によると、米国人の76%が、たとえ政治的論争を呼ぶことになるとしても、企業には自社の信念について態度を明確にしてほしいと望んでいる。
気候変動に対する世界規模での積極的な対策に向け、企業に本気かつ公の態度を迫るのは、米国の最も若い世代なのかもしれない。企業はそれを受けて態度を示さなければ、あらゆる世代の従業員と顧客から取り残されるリスクを冒すことになる。
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アンドリュー・ウィンストン(Andrew Winston)
環境戦略のコンサルタント、著述家。世界各地の一流企業に、環境保護や社会貢献を実践して利益を生み出す方法を助言している。著書に最新作『ビッグ・ピボット』、ベストセラーとなった共著『グリーン・トゥ・ゴールド』、Green Recovery(未訳)がある。ツイッターは@AndrewWinsotn。