人間拡張で1億総多様化の時代が来る!

――人間拡張の要素技術を含め、デジタル技術の進展がビジネスや人々の生活にもたらすインパクトについて、どうお考えですか。

 私は人間の研究をしてきたので個人差が好きです。子どもから高齢者まで、健常者も障害を持った方も含め多様性をもった人々がアクティブに生きられる。そんな社会を究極的には実現したいと。総論は賛成ですよね。でも、産業としては成立しません。何故かというと、多様な人は数が少なくて、種類が多いため、大量生産・大量消費を前提とした従来型の製造業にはマッチしないからです。ボリュームゾーンの真ん中には製品を出していくけれど、端っこには出さない。その状況はなかなか変わりません。

 実は、人間拡張というのは多様性を拡大するものだと考えています。たとえば、「サイボーグ009」。登場人物の能力はすべてばらばらです。みなさんがいま能力をアップできると言われたときに、「私は足が遅いから、人並みに走れるようになりたい」とは言いません。「私はもともと手が器用だから、スーパー器用になって、○○したい」となります。山が高くなるほうに行って、谷を埋めるほうには行かない。人間拡張でアクティブなるというのは、そんな状態だろうと私は考えています。

 いままで企業はひたすらに谷を埋めることでビジネスを行ってきました。端っこにいる人を支援して、真ん中をいっぱい増やせば、製造ビジネスが成立するだろうということで、1億総平均化を目指してきたわけです。これからは1億総多様化の時代です。人間拡張によって、ものに依存しないでサービスを結びつけることができれば、多様性そのものがビジネスになるというのが、私の大きな夢です。

――よくよく考えると、「人間拡張研究センター」というのはユニークな名称ですね。

 産総研が当センターを建てるとき、「人間親和や人間強調といった、もっとやさしい名前があるでしょう」という意見があったのも事実で、「人間拡張」はアグレッシブな名称です。ただ、我々は産業が創出できればそれでいいというわけではなくて、人間拡張の技術が持つ負の側面についても、しっかり見ていきます。欧州では、こうした新しいテクノロジーに対して、ソーシャルコンシャスネス、日本語で言うと社会的な結果影響をどう考えるかということを研究のフレームワークとして組み入れていて、我々もそれにならおうとしています。

 これは技術開発にブレーキをかけようとしているのではなく、むしろブレーキがかからないようにするものです。負の側面ばかりがクローズアップされていくと、もともといいアイデアだったとしても、その技術は途絶えてしまいます。技術そのものが社会のなかで長期的にサステナブルになってイノベーションを起こすかどうか。そのためには、副作用の芽を早期に摘んでいくような研究プロセスが不可欠です。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)