企業はごく最近まで、ファンがフィクションの世界を現実の世界で再現することについて、寛大な姿勢を示してきた。ファンを敵に回すのは得策ではない、との考えからだ。『ハリー・ポッター』に登場する架空のスポーツ「クィディッチ」の大学リーグが登場し始めたとき、商品化権を持つワーナー・ブラザースは商品化を検討したが、結局は断念している。現在、世界には300チームの大学クィディッチ・チームがある。
だが、エクスペリエンス・エコノミーが拡大し、消費者(とりわけミレニアル世代)が「モノを所有する」ことよりも「経験する」ことを好むようになるにつれて、文化財産の所有者の多くが、従来の自由放任的な姿勢を見直すようになった。その結果、長年見過ごされてきたファン活動の一部を商品化する動きが拡大している。企業が、知的財産を使用する第三者に停止命令書を送りつけ、同じようなサービスを自分たちで提供するケースも増えている。
そうした事例は無数にある。
『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J. R. R. トールキンの遺産管理団体は、この物語をテーマにしたサマーキャンプを中止に追い込んだ。アメリカン・コミックス出版社大手のDCコミックスは、バットマンが乗る「バットモービル」の実物大レプリカを製造した自動車メーカーに対して、差し止め命令を勝ち取った。ディズニーは、『スター・ウォーズ』に登場するカードゲーム「サバック」のゲームアプリをつくったメ―カーに対して商標侵害訴訟を起こした。ワーナー・ブラザーズは、『ハリー・ポッター』シリーズに登場するホグワーツ魔法魔術学校の大広間を模したイベントスペースを閉鎖させた。
ネットフリックスも1年前、シカゴに『ストレンジャー・シングス』をテーマとするポップアップバーを開いたオーナーに停止命令を送りつけ、自分たちで公式ポップアップバーを全米展開した。アニメ専門チャンネル「カートゥーン・ネットワーク」は、ワシントンに登場する予定だった、SFアニメ『リック・アンド・モーティ』がテーマのポップアップバーの開業を阻止した。
企業がこうした措置を取ることは、基本的には理にかなっている。
いまや関連商品と経験がもたらす収益は、その基礎となる映画や原作の収益を大きく上回る。マーチャンダイズ市場の規模は2620億ドルに達する。
排他的な商品化権は、娯楽作品の製作の牽引役を果たしており、映画製作費をカバーするだけでなく、どの作品を映画化するかの判断にまで影響を与えるようになった。たとえば、『スター・ウォーズ』シリーズの興行収入は計82億ドルだが、マーチャンダイズの売上げは370億ドルに上る。さらに、テクノロジーの進歩により、インタラクティブ性やロールプレイ、パフォーマンス、一体性を強化した新しい体験が可能になり、マーチャンダイズ市場は拡大する一方である。
法律は市場を追いかけている。かつては空気のように無料だった文化的活動は商品化され、課金対象となり、ライセンスとロイヤルティの規制を受け、許可や支払いを要するものになった。米国の1976年著作権法は、大幅に類似する同一媒体の複製物だけでなく、幅広い媒体の派生物(原作から遠く離れたものでも)も支配する権利を著作権者に認めている。
現在、ファンタジー作品の権利者は、著作物からインスパイアされたあらゆる派生物を支配し、金銭的対価を受け取る権利を持つ。ファンが書いた続編からポップアップバー、クィディッチ・リーグまですべてが、著作権者の善意で見過ごしてもらえるか、実施許諾のない著作物使用として停止命令を下されるかのどちらかである。一方、商標権者は、未許諾の関連商品は、他人が構築したブランドへのタダ乗りだと主張する。
しかし、あらゆるアフターマーケットに対する無制限の知的財産権主張は、必ずしも確固たる法的根拠があるわけではない。連邦最高裁は、学者たちが「いわゆる商品化権」と呼ぶものについて、判断を下したことがない。フェアユース(公正利用)の法理もある。その根底には、後続の創作活動を妨げることなく、新規著作物にインセンティブを与えるという、本来の目的にかなった著作権法運用を確保する意図がある。