だが我々の経験によれば、雇用者側は不安を覚えている。リモートワークを認めると、仕事の合間に所用を済ませるなど、従業員がフルに仕事をしない、あるいは「ながら仕事」をするのではないか、と疑っているのだ。WFAを許せば、チーム内のコミュニケーションやコラボレーションが不足し、社内にいれば自然に得られる日常の学びが制限されるのではないか、という心配の声も聞く。

 ところが、中国のある旅行会社で行われた2015年の調査では、コールセンターのスタッフにWFH制度を導入したところ、生産性が平均して13%向上したことがわかった。その要因は、休憩時間と病欠の減少と快適な労働環境だと見られている。この結果からすると、WFA制度を導入した場合にも同様の生産性向上が見込めるのだろうか。

 現在調査報告書は審査中であるが、我々は、米国特許商標庁(USPTO)に務める特許審査官に対して、2012年に導入されたWFA制度の効果に関する調査を行った。そこでは、勤務条件がWFHからWFAに移行した特許審査官(高学歴の専門職員)の生産性分析を実施した。

 その結果、WFAへ移行後、審査官の成果(産出)は4.4%増加し、手戻り(出願人からの申立を受けた後の審査結果の書き直し)に大きな増加は見られなかった。補足的分析からは、特許品質(審査官引用の回数で判別)の低下も見られなかった。4.4%の生産性向上は、特許が1件登録されるごとに生じる平均的な経済活動に基づけば、米国経済に年間13億ドル相当の価値をもたらす(我々の調査目的からは逸れるが、在宅勤務と在社勤務とを比較した場合の生産性の増加とのあいだに相関関係も確認され、前回の調査結果と一致した)。

 補足的分析では、WFAに移行した審査官が平均して生活費の大幅に安い場所へ引っ越したことから、結果的に、組織のコストを増やさずに、職員の実質賃金を高めていた。

 興味深いことに、勤続年数の長い(定年に近い)審査官は、若い後輩たちよりも「定年者にやさしい」フロリダの海岸沿いのエリアに移住する傾向が強かった。この相関関係は予測分析によるものではないが、WFA制度が、高齢の従業員が生産的な労働力として長く働くきっかけになるとしたら、従業員と組織の両方にとってメリットがある。

 調査では、WFAの審査官の生産性は、他のWFAの審査官の居場所との距離が40キロ以内の場合にさらに向上したが、それには、お互いが同じ技術分野を担当しているという条件がつく。担当技術が異なる審査官同士では、生産性向上の上乗せはなかった。

 この結果から次のことが言える。仕事内容が似ているWFAワーカーが互いに近い距離で仕事をしている(クラスターを形成している)場合には、在社勤務者同士が自然な接触を通じて学び合うのと同じように、日常的な学びが得られるということである。