企業はメンタルヘルス教育に投資し、
柔軟性のある職場の指針を構築する

 多くの企業は「チームの価値観」を確立し、それを推進しようとするとき、全社ミーティングにせよ、全社向けのメールやイベントにせよ、その手段をレトリックに頼っている。

 職場でメンタルヘルスについて語る雇用者が増えるのは一般に好ましいことだが、単にメンタルヘルスが大切だと言うだけでは、人々は自分の苦悩を打ち明けても大丈夫とは思わないし、誰に話せばいいか、どのように助けを求めればいいか、どんなリソースを利用できるかが教えることができない。同様に、リーダーが従業員から打ち明けられたときに、どう会話すればいいかという準備もできない。

 ●メンタルヘルス教育

 企業はメンタルヘルス教育を通じて、あらゆるレベルの従業員に、精神的支援を求めたり提供したりするのに必要な会話をどう組み立てればいいのかを教えること。こうしたイニシアチブへの投資により、従業員のニーズをよりよく対応するために変化して成長したいという、集団としての意思を企業は示すことができる。

「リーダーがメンタルヘルスを重視すると発言するのは、おそらく本当にそうしたいからなのでしょう」と、スタンフォード大学 共感と利他精神研究教育センター(CCARE)」の研究者、モニカ・ワーライン博士は言う。「でも、そう言う以外に何をすべきなのか知らないことが多いのです。だから、ただのリップサービスに見えてしまうのです」

 言うべきことを言ったのに、やるべきことをやっていないのは、知識不足が原因かもしれない。たとえ善意があったとしても、そうしたことが起きる。知識が不足していると、メンタルヘルスにまつわる広義の社会的スティグマ(負の烙印)は永続化し、リーダーや従業員は精神的苦痛をサポートしたり、苦痛を見つけ出したりする態勢が整っていないと感じてしまう。

 ●柔軟性のある職場の指針

 組織面では、柔軟な指針と福利厚生サービスによって、従業員に選択の自由を提供することでメンタルヘルスを養うことができる。

 ワーライン博士とミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスの経営・心理学教授であるジェーン・ダットン博士の共同研究では、従業員の成績と心身の健康は、いつ、どこで働くかを柔軟に決められる環境で向上するという結果が出た。「そうした環境であれば、従業員はメンタルヘルスやプライベートで何か他の困難を抱えていても、置かれた状況に適応しやすくなります」とダットン博士は言う。

 病気休暇や忌引き休暇の指針は一般的だが、ほとんどの職場では有給休暇(無給であっても)を取るのは容易なことではない。「深刻なメンタルヘルスの問題に対処する余裕をつくるためには、実際に利用できることが肝心です」とワーライン博士は言う。マネジャーや人事の専門家は、全従業員がこうした福利厚生サービスを認識できるように、指針を可視化し、明確にすることに優先的に取り組むべきである。

 さらに企業は、実際にサービスを利用した人々の話を紹介することでもサポートできる。そうすれば、他の従業員にも同じことをしても大丈夫だと伝えることができると、ダットン博士は言う。