リーダーは共感を示す
これは、あまりにも単純に見えるかもしれない。結局のところ、他者とつながるために指針を示したハンドブックを更新する必要はないし、企業向け福利厚生サービス業者にとって価値あるデータが生まれるわけでもない。
それでも、職場の共感は「結果」を出す。一人ひとりの心身の健康、そしてビジネスに成果もたらすのだ。
研究によると、リーダーが食場で弱みを見せることを促し、共感を養うなら、従業員間に肯定的な感情と信頼が高まるという。またリーダーへの信頼は、従業員の成績を向上させるだけでなく、従業員が個人的な悩みをマネジャーに打ち明けても大丈夫だと思えるようにする。こうした組織文化では、従業員は「自分の欠点、弱点、避けがたい脆さや弱さだけでなく、自分が持つすべての強みや才能を仕事に投入するようになります」とダットン博士は言う。
さらに、共感のある環境で働く従業員は、より革新性と適応力に富み、より質が高く一貫性のある仕事をすることがわかっている。長期的には、共感によって企業は最も有能な従業員を引きつけ、留めることができる。従業員のメンタルヘルスの面でも企業の繁栄という面でも、ウィン・ウィンだと言えるだろう。
リーダーが共感力を高め、チームメンバーの信頼感を深めるためのシンプルな(だが必ずしも簡単ではない)方法は、折に触れて自分自身の弱さを見せることである。
人間のつながりに関する研究を続けてきた社会学者ブレネ・ブラウンは、弱さには不確実性、リスク、感情をさらけ出すことが伴うという。リーダーにとって弱さを認めることとは、個人的な問題を打ち明けること、失敗の責任をとること、問題を変えようとも解決しようともしないでもがいているように見えるチームのメンバーに手を差し伸べることである。もしマネジャーがもっと堂々とメンタルヘルス休暇を取れば、チームのメンバーも同じことをしても大丈夫だと思うだろう。
従業員がマネジャーを(そして互いに)弱さを抱えているのだと思えるようになるほど、職場は人間味のある場所になる。
従業員は感情面で対応する
従業員が同僚に「助け」や「サポート」を提供することは、案外難しいことではないかもしれない。共感は科学ではなく、実験の積み重ねなのだ。
ワーライン博士によると、それは「個人間の仕事」である。博士は、私たちが職場やそれ以外の場所で感情的な苦痛を抱えている人のために、心理学でいう「相手のための空間をつくる(holding space)」ことを実践する、いくつかの方法を挙げている。
・他の人に手を差し伸べるために対応し、喜んで時間を取る。
・誰かに秘密を打ち明けたいと言われたら、ドアを閉める。
・その人が言いたいことを過不足なく言えるよう、じっくりと耳を傾け、質問する
・必ずしも問題を解決しようとしなくても、理解ある対応はできる。
・打ち明けてくれたことを感謝し、もし何か助けになりそうなことが思い浮かんだら、「もし私がこのことをしたら、助けになりますか」と尋ねる。
メンタルヘルスや広義の弱さにまつわるスティグマは、データが改善するだけでは解消されないし、ピカピカの快適な設備があれば克服されるものでもない。はっきりと目には見えず、漠然としているものの、非常に話しづらい困難を抱える人々を受け入れることを、私たちは学ばなければならない。私たちが彼らを気にかけていること、そして少なくとも理解しようと努力していることを示さなければならない。
私は職場のウェルネスがどれだけ経済的効果をもたらすのかについては、いまなお懐疑的だが、企業はこうした方法で従業員をサポーとすることができ、またそうすべきだと確信している。
私が言いたいのは、雇用者はスピンクラスやグルテンフリーのスナックにお金と時間を投資するのをやめろということではない。ただ、これらのサービスはあればよいものだが、なくてはならないものではないことを理解すべきだと言いたいのである。
資本主義が刻むリズムは、人間の健康と生産性の浮き沈みには無関心かもしれない。だが、人間である私たちはそうではない。
CEOであろうとインターンであろうと、人間は生来、互いを気遣い、感情は解決すべき問題ではなく探求すべき問いであり、自分たちを強くするための試練であることを理解している。探求し、そして強くなることで、レジリエンスや忍耐力、好奇心が生まれる。これは単なる福利厚生サービスや特典ではない。これこそが、人間であることの本当の仕事なのだ。
HBR.org原文:What Wellness Programs Don't Do for Workers, August 14, 2019
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シャーロット・リーバーマン(Charlotte Lieberman)
ニューヨークを拠点とするライター、編集者、コンテンツ・コンサルタント。『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌、『マリ・クレール』誌、『ゲルニカ』誌などに寄稿している。ツイッターは@clieberwoman。