(1)報酬とインセンティブ
資本主義に対する不満の大きな原因の一つは、経営者と従業員の報酬の格差拡大だ。
多くの企業で、CEOは平均的労働者の200倍を優に超える報酬を得ている。この格差を縮小する措置をとること(CEOの報酬を引き下げるか、平均賃金を引き上げるか、その両方かを問わず)が、企業が検討するべき重要な第一歩となるだろう。
アスペン研究所のジュディ・サミュエルソンの助言に従うのも一案だ。サミュエルソンは企業に、「CEO報酬を決定する際の著しい株価重視の見直し」を呼びかけてきた。
(2)所有とガバナンス
株主の利益と従業員の利益を一致させるもう一つの方法は、従業員を株主にすることだ。従業員による株式所有計画(ESOP)の策定、または、すでにESOPがある場合は、それを拡大することが非常に役立つだろう。
あらゆるステークホルダーの利益に供するという宣言に実効性を持たせるためには、会社のガバナンス構造に、さまざまなステークホルダーの声がきちんと届くようにする必要がある。従業員の代表を取締役会に加えることは、大いに試されてきた方法だ。独立した諮問機関を設置するのも有効だろう。
(3)税金とロビー活動
『ファスト・カンパニー』誌に掲載されたBRの声明に関するある記事は、本稿執筆者の一人(ジョン・エルキントン)の言葉を引用している。
これらCEOが本気でその論理を歓迎しているなら、「いっさいの業界団体の役職を辞任するはずだ。こうした団体は、必要なシステムの改革を遅らせるか停滞させるロビー活動をしているのだから」。また、CEOたちは「有意義なカーボンプライシング(炭素税などの形で温暖化ガスの排出に価格をつけ、排出量に応じた負担を課す制度)のため、さらには独占や寡占を解体するために、強力かつ公然たるロビー活動を展開する」はずだ。
この最後の部分は、とりわけ重要だ。『エコノミスト』誌は、「180人の署名者のリストに目を走らせると、……多くは寡占的な業界の経営者だ」と指摘している。寡占企業であることは、株主には直接的な利益をもたらすかもしれないが、従業員や顧客、あるいは社会にとって最善の利益にならないのは間違いない。
税金については、181人のCEOはWinners Take All(未訳)の著者アナンド・ギリダラダスの問いを真剣に受け止めるべきだ。ギリダラダスはツイッターで、「この声明に署名した企業の中で、合法的だが非倫理的な税逃れを一つでもやめる企業は出てくるだろうか」と問いかけた。
(4)調達
BRの声明は、サプライヤーと「私たちが働くコミュニティ」も、ステークホルダーとして挙げている。この点に関して取りうる強力な措置は、モノやサービスをなるべく地元で調達して、サプライヤーとコミュニティの重複部分を拡大することだろう。すると、そのコミュニティ内における当該企業の正当性が高まり、地元経済に貢献することもできる。
(5)投資
BRの声明を受け、すべてのステークホルダーの利益にコミットするなら、企業は自社株買いをやめるべきだ(または少なくとも縮小すべき)と指摘する声がある。これは、よいアドバイスだ。ただし、自社株買いにあてられるはずだった資金が、他の領域に幅広く投資されれば、の話である。
たとえば、その企業が所有するすべての施設が、可能な限り高い環境基準を満たすように、燃費向上装置などに投資することだ。こうした措置は、光熱費削減や環境インパクトの軽減など、さまざまな恩恵をもたらすことがわかっている。従業員のウェルビーイングや生産性の向上、さらにはこうした施設の資産価値の上昇という利点もある。このような投資は、文字通り、すべてのステークホルダーにとって恩恵になるだろう。
(6)プロダクトと価格決定
最後になるが、重要なのは、多くのBR会員企業が、社会的・環境的に大きな問題を引き起こしつつあるビジネスモデルに囚われていることだ。
これら企業は、プロダクトと投資ポートフォリオを厳しく精査して、利益は生み出しているが、主要ステークホルダーの健康やウェルビーイングを大きく傷つけたりしていないか調べる必要がある。オピオイド蔓延問題に関して、最近ジョンソン・エンド・ジョンソンに下された判決を考えるといい。真のリーダーシップは、問題のあるプロダクトを完全に廃止するか、ネガティブなインパクトがないよう根本からつくり直すことである。
同じように重要なのは、181社の中には、そのプロダクトが顧客に巨大な恩恵をもたらしているものの、頻繁に価格をつり上げている企業が含まれていることだ。たとえば製薬企業の多くは、特許法を盾に各医薬品について独占的地位を築き、研究開発投資を回収した後も、しばしば長期にわたり高い価格を維持している。この問題に正面から対処することは、製薬業界をはじめ、多くの業界のリーダーシップを試す重要な機会になるだろう。
理想的には、企業は上記6つの領域すべてで行動を起こすべきである。今後10年間の最も重要な問いは、企業が経済的、社会的、そして何よりも環境的に責任を担う(BRはここを重視している)と同時に、レジリエント(気候変動問題の要請)で、再生可能(次のビッグステップ)なれるかどうかだ。
その一方で、181人のCEOにはシンプルな問いを突きつけられている。「口先だけでなく、有効な行動を起こす意思があるのか」、と。
HBR.org原文:6 Ways CEOs Can Prove They Care About More Than Shareholder Value, September 2, , 2019.
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ジョン・エルキントン(John Elkington)
ヴォランズの会長兼最高ポリネーター(媒介者)。著書にヨッヘン・ザイツ元プーマCEO兼会長との共著、The Breakthrough Challenge(未訳)などがある。
リチャード・ロバーツ(Richard Roberts)
ヴォランズのプロジェクト「トゥモローズ・キャピタリズム・インクワイアリ」を指揮する。