空前のブームの陰でリスクが山積

奥野 慎太郎(Shintaro Okuno)
ベイン・アンド・カンパニーのパートナー。京都大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。東海旅客鉄道株式会社(JR東海)を経て、ベインに参画。テクノロジー、産業財・自動車、消費財、流通等の業界において、M&Aや企業統合、構造改革などを中心に、幅広い分野のプロジェクトを手がけている。ベイン東京オフィスにおけるM&Aプラクティスのリーダーであり、2014年より東京オフィス代表。

 と、こうみるといかにも景気の良い話で、バブル期に日本企業が世界の投資シーンを席巻した頃の再現のように聞こえなくもないが、その足元では看過できない問題がおきている。大型M&Aを敢行したものの、狙ったようなリターンが上がらず、のれんの償却が経営を圧迫、結局のれんを減損処理したり、買収先を売却あるいは処分したりするような例が増えているのである。

 1990~2014年の間に投資された5億ドル以上のアウトバウンドM&A案件110件についてベインが調査したところ、公表されているだけで実に約3割の案件でのれんの減損処理が行われ、約1割の案件では買収先の売却ないし撤退が行われていることが判明した。

 例えば、2014年に高級水回り製品メーカーのグローエを約40億ドル買収したLIXILは、翌2015年に買収金額の1割程度にあたる減損を計上したし、上記の調査機関よりも後であるが、2015年に豪州の大手物流企業TOLL社を約49億ドルで買収した日本郵政は、2017年に同社のれんの大規模減損に踏み切り過去最大の赤字に転落している。

 同期間に米国企業が行ったM&A(アウトバウンド以外も含む)のうち、減損処理に至った案件が5-6%であったことと比較すると、両国の会計制度の違い等はあれ、この数字の高さが感じられる。

 もう1つ、これに関連した看過できない事実が、日本企業のアウトバウンドM&Aにおける「高値づかみ」の傾向である。2009年からの10年間に行われた世界の主な企業買収案件の平均プレミアムが26%であったのに対し、同期間における日本企業のアウトバウンドM&Aの平均プレミアムは34%、実に3分の1程度もプレミアムを多く積んで買収していることになる。

 この原因の一端は、海外のアウトバウンドM&Aが、その後のリストラを織り込んで商圏・販路獲得のために不採算事業を買収することも多いのに対し、日本企業のアウトバウンドM&Aが優良事業の買収によっていることにもあると思われるが、それにしてもこの超過プレミアムが、M&A成功のハードルをあげていることは間違いないだろう。