少ないデータから学ぶ次世代型AIの開発も
――MinD社では、「生成モデル」を実装した次世代AIの開発も手掛けていますが、既存のAIとは何が違うのですか。

深層学習によるニューラルネットワークは、“大飯食らいの化け物”みたいなもので、大飯(=ビッグデータ)を食わせれば、ものすごい威力を発揮しますが、それがないと、どうにもならないという問題があります。
生成モデルは、低次の入力情報から高次の推定結果を得る「ボトムアップ処理」と呼ばれる仕組みと、高次から低次を生成する「トップダウン処理」の仕組みを兼ね備えています。これを実装した次世代型AIでは少ないデータから学ぶことができ、たとえば、データの少なさゆえに従来手法では困難と言われている異常検知などに大きな力を発揮します。
――今後の展望について伺います。
意識のアップロードについては、本気で目指していますし、技術的にも、科学的にも、十分可能性があるととらえています。一方で、アカデミアの研究開発には限界があるのも事実です。
脳科学の世界に足を踏み入れてから、かれこれ25年ぐらい経ちますが、どのくらいの規模で、どのくらい取り組むと、どのくらい研究開発が進むかとの感覚はだいぶ身につきました。そして、そのことを鑑み、私自身のアカデミア内の研究開発ではまったく力不足であると認識するに至りました。それゆえ、民間の力をぜひとも活用したいと考え、3年もかけて一般書である『脳の意識 機械の意識』に取り組んだのです。
本書を通して知り合った中村翼氏(CEO)とスタートアップを設立したのは、アカデミアの上限とも言える20人規模の研究体制を超えて、数百人規模、数千人規模へと拡大していくためです。意識のアップロードが、人類を月に送ったアポロ計画と比べても難易度が高いことは認めざるを得ませんが、一方で、いまからこれに取り組む価値は十分にあり、この「意識」でその実現を見てみたいとの思いを強くしています。私たちが台風の目となり、実績を積み上げていくことができれば、民間、アカデミアを問わず、世界の多くの研究機関を巻き込んでのブレークスルーも決して夢ではありません。
(構成/堀田栄治 撮影/西出裕一)