データ活用は、個別企業の業績だけでなく、GDPとも正の相関を持つことが調査や分析から明らかになっている。日本は他の主要国に比べてデータ活用が遅れていることが判明しているが、それは裏を返せばデータ活用が生み出す潜在的経済効果が大きいという、大いなるチャンスを示してもいる。

いまや、データ活用とAI(人工知能)活用は切っても切り離せない関係だが、日本企業におけるデータ・AI活用は「3つの壁」に阻まれている。それらの壁を乗り越え、人の意思とAIの予測を融合させた「未来予測型の経営」へと転換するための現実解について、アクセンチュアの保科学世氏が解説する。

データ・AI活用を妨げる「3つの壁」

 データドリブンな意思決定が企業の売上げや利益と相関することは、計量経済学的にも明らかになっています。たとえば、大手上場企業を対象とした米国のある学術調査によると、データドリブンな意思決定を行っている企業の売上高は、行っていない企業に比べて4.5%高いことがわかりました。

 また、総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(2015年)には、データ流通量が2倍になると、実質GDPは11兆~24兆円増加するという推計結果が示されています。マクロ経済分析においても、データ活用が経済効果を生むことが明らかにされているわけです。

 にもかかわらず、日本企業のデータ活用は欧米に比べて遅れており、ビジネス成果を十分に得ることができていません。総務省が日本と欧米企業を対象に行った調査では、データを積極的に活用していると回答した企業が米国では41%、英国が34%、ドイツは32%だったのに対し、日本は16%に留まっています。さらに、ガートナーが日本企業を対象に行った調査では、「データ活用によるビジネス成果を十分に得ている」と答えた企業は、わずか3%でした。

 データ活用そのものが進んでいないのですから、客観的な状況分析や迅速な意思決定のためにAIでデータを分析するという動きもかなり遅れています。

保科学世
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部
AIグループ日本統括 AIセンター長
マネジング・ディレクター 博士(理学)

AI・アナリティクス部門の日本統括およびデジタル変革の知見や技術を結集した拠点「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」の共同統括として、AI HUBプラットフォームやAI POWEREDサービスなどの開発を手がけるとともに、AI技術を活用した業務改革を数多く支援。 『責任あるAI』(共著、東洋経済新報社、2021年)、『AI時代の実践データ・アナリティクス』(共著、日本経済新聞出版、2020年)、『AI フロンティア』(監修、日本経済新聞出版、2019年)、『HUMAN+MACHINE』(監修、東洋経済新報社、2018年)など著書多数。

 アクセンチュアなどが行った推計によると、日本企業がAIを活用した場合、2035年における日本のGVA(総付加価値、ほぼGDPに相当)成長率は、活用しない場合に比べて約3倍になるという結果が表れました。日本経済の競争力を維持・強化するためにも、経営におけるAI活用は不可避だといえますが、残念ながら現状では、AIの積極的なビジネス活用の土壌が整っている企業は多くないと言わざるをえません。

 では、なぜ日本企業のデータ・AI活用は進まないのか。そこには「3つの壁」が立ちはだかっているからです。

 1つ目は、そもそも活用すべきデータが十分に整備されておらず、業務の属人化によって全社的なデータ活用がしにくい構造に陥っている「データ活用の壁」です。

 そもそも業務がデータとして蓄積されていない、蓄積されていても分析されないままの状態で企業に蓄積されているデータは、全体の6~7割に上るといわれます。これは、データ管理システムが十分に整備されていないことなどが原因です。

 この壁の突破方法としては、ERP(統合基幹業務システム)パッケージを導入して経営・業務上生成されるデータの一元管理を図り、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用して、データを容易かつ直感的に可視化できるようにすることなどが有効です。