経営層によるコミットメントが最も重要

 2つ目は、「分析活用の壁」です。たとえば、データがある程度整備されたとしても、事業部門ごと、機能ごとに分断されている状態では、全社のデータを集めて分析を行うのは困難です。

 すべての部門や機能のデータが一元化され、全体状況のリアルタイムでの変化や、それに基づく分析、将来予測などが「コックピット」にわかりやすく表示されるような仕組みが求められます。

 さらに、企業によるデータ分析活用を困難にしているのが、データ分析人材の不足です。日本企業の場合、データ分析のための専門家(データサイエンティストなど)を雇用・育成できず、非専門家がデータ分析業務を担っているケースが多く見受けられます。これはそもそも、日本の企業では理系人材の割合が低いことも影響しています。

 そして、3つ目として挙げられるのが「AI活用の壁」です。日本企業では、経営層から業務担当者に至るまで、あらゆる階層においてAIリテラシーを持った人材が不足しています。

 特に経営層のAIリテラシー不足は深刻で、情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」によると、AIに理解のある経営層が「十分にいる」と回答した企業は、わずか5%に留まります。

 これは、日本企業においてはデータやAIよりも、いまだに直感を信用して経営判断を行っている傾向が強いことを示しています。

 同様に、業務担当者のAIリテラシー不足も深刻な問題です。これを解決するために、給与体系を見直して高賃金のAI人材を獲得する、M&A(合併・買収)によってAI人材を多数抱える企業を傘下に収めるといった取り組みを行う企業が増えています。

 また、AI人材を育成するノウハウを持った企業とのジョイントベンチャー(JV)によって、長期的な人材育成に取り組んでいる企業もあります。アクセンチュアも、いくつかの企業とJVを設立しており、ある企業はJVを通じて2023年度中に社内デジタル人材を2倍の4,000人に増やす計画です。

 ここまで、データ・AI活用を阻む「3つの壁」について説明してきましたが、これらの壁を突破できたとしても、データドリブン経営が実現するとは限りません。

 企業がデータ・AI活用を実現するために最も重要なのは、経営層によるコミットメントです。先ほど述べたように、日本企業の経営層は、経営判断においてデータ主導型のインサイトよりも直感を優先する傾向が強く、これがデータドリブン経営の実現を阻む大きな要因となっています。

 もちろん、勘と経験は経営判断を行ううえで重要な要素ですが、さまざまな状況が目まぐるしく変化する今日の経営環境においては、その状況を瞬時に「見える化」し、精緻な分析や、将来予測を行ってくれるAIを活用して、勘と経験と度胸を補うことが求められます。その具体的な方法について、解説します。

データ活用・AI活用のための具体的なソリューション

 企業を取り巻く経営環境は、近年ますます複雑化、多様化しています。そうした中で、既存のコアビジネスを維持しながら、いかに新しい事業に方向転換するかということは、経営における重要なテーマとなっています。変化が激しく、不確実性が増している経営環境に向き合うため、「Agility」(機敏性)、「Accuracy」(正確性)、「Flexibility」(柔軟性)、「Feasibility」(実現性)という4つの観点で意思決定を行う必要があります。

 刻一刻と変化する市場トレンドをいち早くとらえ(機敏性)、複数の要素の変化・変動をとらえた正確かつ客観的な分析を行い(正確性)、変化の状況に応じた複数のシナリオを検討し(柔軟性)、確実に実行まで落とし込む(実現性)という4つのステップで、適切な経営判断と行動を実現させることが重要です。

 これらを実践するには、データおよびAIの活用が欠かせません。そのための仕組みとして、たとえばアクセンチュアでは「AI POWERED マネジメントコックピット」というデータ・AI活用のためのソリューションを提供しています。

 AI POWERED マネジメントコックピットは、全社から収集したさまざまなデータをもとに現況把握を行い、AIが客観的な予測や推奨シナリオを提示することで、経営判断や施策検討を支援するソリューションです。

 具体的には、「重要KPIの一元管理」「AI成行予測」「AI推奨シナリオの提示」「意思決定シミュレーション」という4つの機能を搭載しています。

 「重要KPIの一元管理」は、最新実績をもとに更新される重要KPIをモニタリングし、売上げの未達や在庫の急増といった異常が検知されると、すぐにアラートを発する機能です。従来型の経営管理手法では、業績報告が月次や週次といった単位なので、刻一刻と変化する市場動向をリアルタイムにとらえることはできません。その点、この機能は、異常値を瞬時にとらえるだけでなく、すぐさま状況を報告してくれるので、スピーディな対処が可能となります。

 異常値が明らかになると、その状態を放置した場合、KPIがどのように推移するのかをAIが予測します。これが「AI成行予測」です。「AI成行予測」では、AIが客観的なデータをもとにKPIの推移を予測するので、従来型の経営管理手法でありがちな担当者の勘と経験と度胸に頼った評価や、さまざまな忖度を反映した人為的な”手加減”はありません。数値の正確性が担保されているので、非常に確度の高い予測が可能となります。

 さらに、「AI推奨シナリオの提示」では、発注の増減や値引き、マーケティングの強化といった施策を打った場合、KPIがどのように変化するのかをAIが示し、適切だと思われるシナリオを推奨します。

 経営層は、AIが提示する複数のシナリオの中から、経験や戦略に照らし合わせて最もふさわしいと判断するシナリオを選ぶことができます。状況に応じて、より柔軟性の高い経営判断が可能となるわけです。

 シナリオを決定すると、最後に「意思決定シミュレーション」機能が、そのシナリオを選択した場合のKPIの変化をシミュレーションしてくれます。問題がないと判断すれば、ゴーサインを出して意思決定が完了します。

 AI POWERED マネジメントコックピットは、社内の基幹システムなどに連携させることができるので、意思決定の内容はそのまま各部門に伝達され、実行フェーズに移ります。これによって、変化が起こっても、状況分析から意思決定、実行までの一連の対応をスピーディに回せるようになります。