チームワークが欠如している

 私たちは以前、ある病院の認知症病棟で働く人たちのチームを調査したことがある。

 そのチームはエンゲージメントの指標で高いスコアを記録していて、チームのリーダーはリーダーシップに関する賞を最近受賞したばかりだった。看護師やスタッフは、カネや地位ではなく、強い使命感に突き動かされて仕事をしていると述べていた。実際、チームのメンバーは、患者に最良のケアを提供することに心血を注いでいた――少なくとも、自分の担当患者には。

 しかし、すべてが完璧だったわけではない。まず、看護師たちは疲労困憊していた。1日の仕事が終わると、心身ともに疲れ切っていて、我が子に笑顔で接することすらおぼつかないと、ある看護師は打ち明けた。

 それに、おざなりにされている業務もあった。看護師たちは、自分の担当患者には親身に接していたが、病棟の食事時間の準備など、チームの一員として取り組むべき業務にはあまり熱心でなかった。ベッドのシーツ交換などで助け合うことにも消極的に見えた。

 病棟のマネジメント層は、このことに気づいていなかった。エンゲージメントの指標全般が良好だったからだ。だが、指標の中にチームワークのレベルを評価するものは含まれていなかった。この状況を改めるためには、チームの成功の度合いを映し出す指標を設計し、また、チームへの義務を果たすことをメンバーの職務として明示する必要がある。

 チームワークを高めるには、大小を問わず、好ましい行動を明確に奨励することが有効だ。たとえば、自発的に同僚のシーツ交換を手伝ったり、患者の家族の意見を反映させる取り組みを始めたりしたスタッフを褒め称える。まずその場で称賛し、あとでミーティングでも話題にするとよい。協働志向の行動を取れば評価されるのだと、みんなに理解させることが狙いだ。

 メンバーが互いの行動を称賛し合うよう促すことも、有効な方法と言える。たとえば、同僚に助けてもらったと感じたときに、オフィスの壁にお礼のメモを張りつけるなど、同僚を評価する仕組みをつくってもよいだろう。

ルールの悪用がまかり通る

 社員の個人単位のパフォーマンスしか評価対象にしない会社では、メンバーは、チーム全体の生産性を犠牲にして個人の利益を追求しがちだ。たとえば、仕事を早く片付けて追加の仕事を引き受けるのではなく、わざとゆっくり仕事をして時間を潰す、楽しい仕事ばかり選り好みする、上司に取り入って自分だけ得しようとするといった具合だ。

 この種の行動パターンは、すぐに「伝染」する。新しいメンバーが加わっても、エゴイズムに基づいて行動した人が得をする現実を目の当たりにすれば、協働への情熱はたちまち失われてしまう。

 私たちは、ある化学企業のチームを調べたことがある。そのチームは、6時間の勤務時間のうち4時間で仕事を終わらせるために並々ならぬ努力をしていた。一見すると、きわめて生産性の高いチームに思えた。しかし、よく調べると、この人たちは残りの2時間を「のんびりお茶を飲んで」過ごすつもりでいたのだ。

 こうした行動を変えるためには、個人レベルとチームレベルの両方の目標と評価指標を定め、チームワークとチーム全体のパフォーマンスも評価の対象にする方針を、はっきりと打ち出す必要がある。マネジャーがメンバーと一緒に、共通の価値観と目的意識を育むことも重要だ。特定の評価指標に関して責任を持つ役割を、メンバー内で持ち回りにしてもよい。そうすることで、チームのメンバーがみんなで責任を持つ意識を養える。

上司の顔色ばかり見る人が多い

「エンゲージメントもどき」の状態にあるチームのメンバーは、自分が同僚と一緒に何を成し遂げたかよりも、同僚たちからどのように評価されているかを気にする。リーダーが意図せずに先例をつくっている場合も多い。リーダーがメンバーと一緒に過ごすことより、上層部の歓心を買うことにしか関心がないように見えれば、メンバーも同様の行動を取り始める。上司の顔色ばかりを伺うようになるのだ。

 マネジャーは、リーダーたちがチームのメンバーと多くの時間を過ごし、現場をよく理解するよう求めるべきだ。一方、チームのメンバーには、自分の評判を高めることよりも、チームにとって何が好ましいかを考えるように促す必要がある。

 私たちが調査したチームリーダーの一人は、廊下の壁にボードを設置し、そこにメンバーが日々、仕事への熱い思いや不満を書き込むようにした。そのリーダーは書き込みを見ることにより、チームの日々の状況を理解できた。

 また、ボードに書き込みをするようになったことで、ミーティングのたびに、どの活動が順調で、どの活動に改善の余地があるかを、みんなで話し合うことも可能になった。メンバーはその結果として、チームレベルでの好ましいパフォーマンスとはどのようなものかを、理解できるようになった。このようにメンバー同士の交流を促す活動を導入することには、メンバーの絆を深め、責任感の共有を後押しする効果も期待できる。

 ややもすると、マネジャーは、チームに全面的なエンゲージメントがあると思い込みがちだ。しかし、表面だけを見ずに、現実を認識すれば、取るべき行動がはっきり見えてくる。協働と助け合いと責任感の共有を重んじ、それを実践したメンバーに報いるつもりであることを、メンバーに理解させるべきだ。

 そのようなメッセージが浸透すれば、チームのメンバーが真の全面的なエンゲージメントをいだくようになる。これまでの研究からも明らかなように、そのようなチームでは、優れたパフォーマンスが発揮され、顧客サービスの質が高まり、顧客満足度も向上する。


HBR.org原文:How Engaged Is Your Team, Really, October 09, 2019.

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エイミー・ブラッドレー(Amy Bradley)
ハルト・インターナショナル・ビジネススクール(アシュリッジ・エグゼクティブ教育キャンパス)の教員。社員のエンゲージメントや職場における思いやりなどのテーマで教育と研究を行っている。近著The Human Moment(未訳)では、職場で人間らしさが失われつつある時代に、思いやりのある組織を築くことの重要性を訴えている。

シャロン・オリヴィエ(Sharon Olivier)
ハルト・インターナショナル・ビジネススクール(アシュリッジ・エグゼクティブ教育キャンパス)の教員。21世紀のリーダーに求められる知性、未来の人事のあり方、チームと個人のエンゲージメント、ポラリティ・マネジメントと統合思考、レジリエンスの神経科学、心の知性などが専門。