あなたがどう見られるかが変わる

 ストーリーを伝えたいと思う企業は、具体的に何をすればよいでしょうか。

 まず、シグネチャーストーリー探しにコミットすることが大事です。そして、ストーリーは顧客だけでなく組織の内部に対しても非常にパワフルである、と理解することです。

 本書に書いたハイアールの張瑞敏の話は、ストーリーが会社の内部でいかに大切だったかを描いています。張は1980年代半ばに、ほぼ倒産しかかっていた中国の冷蔵庫メーカーのトップとなります。ある時、購入した冷蔵庫が不良品だったという客がやってきた。張は在庫すべてを調べ、うち2割が不良品であることに気づき、従業員たちに大きなハンマーで破壊するように命じました。

 これは社内に対して、「今後、私たちはクオリティにこだわる会社になります。これから私たちは最高の品質の商品を作ります」というメッセージとして伝わりました。そして今やハイアールは、トップクラスのメーカーになっています。

「会社が当社はいったい何なのか、何のために存在するかの理解がなければ、ストーリーを作ることもできないのではないか」と本を読んで感じました。

 戦略的メッセージがあってこそのストーリーです。でも一方で、ストーリーからその会社の戦略やパーパス(存在意義)がわかる、という面白いやり方もあるのです。

 会社の人々を集め、その会社の中で起こったストーリーを語り合います。そうすると、それらのストーリーがその会社が何なのかを映し出す。ストーリーを集めた上で、「当社とは何かを問う」というやり方です。

 こうすることで、会社のパーパスの見方を広げることができます。パーパスとは1つではなく、これもあれも会社のパーパスだと気づく機会にもなる。

 これまでは企業のお話でしたが、私自身は個人のストーリーについての本書9章の「自分を知るためのシグネチャーストーリー」も好きです。

 みんなそう言うんですよ(笑)。

 私の興味は組織を助けることにあるので、「自分を知るためのシグネチャーストーリー」については本来、娘のジェニファーが書くべきことだと思っています。でも、多くの人が、個人としてもシグネチャーストーリーが必要で、そのストーリーが人生を導くと書いたこの章が役に立ったと言っているのは事実です。

 ストーリーを語れば人はそれに耳を傾け、それを記憶する。そうすることで、あなたが他人からどう見られるかが変わるかもしれません。

 とはいえ、この章を書くのはストレスでした(笑)。ジェニファーが書けと言ったので書いたのです。

 この本を書いた後、今、追求している問いは何でしょうか?

 来年出版予定の新しい本を書いています。それは、成長のためには、新しい「サブカテゴリー」となる、人々が持たずにはいられないものを作り出すしかない、という話です。新たなサブカテゴリーを作れば、ブランド=そのサブカテゴリーとなります。この研究は、日本のビール業界を見ることから始まったんです。ものすごい競争の中、新しいサブカテゴリーを作ることができた会社が大きく成長する。

 この本は実は昨年1度書き上げたのですが、それを読んだジェニファーから「デジタルのことを全然書いてない」と言われたのです。今は、娘のアドバイスに従い、本の半分をデジタルについての内容にして書き直しをしているところです。

 最後の質問です。「シグネチャーストーリー」という言葉は、アーカー先生の言葉ですか?

 はい。私が言い始めた言葉です。

 多くの人が本書を読まれますように。本日はありがとうございました。