●アイデンティティを見識として捉える

 D&I実践者は、アイデンティティを有益なものと捉えることが多い。ただしそれは、周縁に追いやられ、マージナライズされたアイデンティティのみである。

 その理由は、社会でマージナライズされている有色人種や女性、LGBTQ+、移民、ユダヤ系の人々などの地位を引き上げることは必要だが、ストレートの白人男性のためにつくられた社会で、彼らを持ち上げるのは道理に合わないからである。

 私自身もこの点は同意する。しかし、この理由に基づいてD&Iイニシアチブを構築すると、ストレートの白人男性に自分は部外者だと感じさせる一因となり、これは特権を持つ者が権力を有する企業においては、大きな損失である。

 だが、この理由を逆手にとって、長所に基づくアプローチを取ることもできる。すなわち、アイデンティティを見識として捉えるのだ。

 たとえば、このような見方はどうだろうか。「白人は社会で人種がどう機能するかについて、影響力があるものの偏った理解をしている」。このような意見は特権を持つアイデンティティ(白人)を特定し、その価値を条件付きで認め(影響力があるものの偏っている)、先に続くような会話(人種が社会でどう機能するか)を促して、正しく理解しようとしている。

 また、次のような質問で、さらに広範な話題に発展させることも容易だ。「他の人種グループは、社会で人種がどのように機能するかについて、どう理解しているか。彼らの経験はどう違うのか。それはなぜか」

 最近、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスの同僚による「公平で包括的なリーダーシップ」の講義で、私はゲスト講師として登壇した。その際、全米各地から集結したリーダーたちの一団を前にして、この捉え方を使った。

「皆さんは、自分の職場でジェンダーがどのように機能するかを心得たエキスパートです」と私は語りかけた。その場にいた女性はうなずいたが、男性は半信半疑のようだった。

 ある男性が、「自分の職場がどのように機能するかについては、よく知っています」と発言した。「昇進したいときはどうすればいいか、どのように問題を解決するか、どのように意思決定されるか、といったことです。しかし私の妻によると、彼女の職場では、事は同じようには運ばない。彼女はジェンダーのエキスパートですが、私はそうでありません」

 私は、彼の最初の発言を言い直した。「あなたの職場が女性にとってどう機能するかを、あなたの妻はよくご存じだ。そしてあなたは、あなたの職場が男性にとってどう機能するかを理解している、ということです」

 ●公平さに目を向ける

 平等さや「公平さ」は、我々の文化で最も力強い共通の信念の一つである。人生において、人は誰もが公平にチャンスに恵まれ、自分の達成したことに応じて報酬を受けられるべきである。

 ストレートの白人男性であるリーダーと一緒に仕事をするとき、私はよくこう言う。「あなたは、自分の会社において公平さが大事だと思っていますよね。それにストレートの白人男性であるあなたは、あなたと同じ種類の人々にとって、組織がどのように機能するかに関する深い見識と専門知識があります。リーダーとしてのあなたの仕事は、あなたとは異なる人たちの場合はどうなのかを理解し、誰もがよい経験をできるようにすることです」

 この3文は、いくつかの点で役に立つ。第1に、通常はあえて表に出ることのないアイデンティティであるストレートの白人男性を非難したり、恥をかかせたりすることなく認識できる。第2に、そのようなアイデンティティの価値を専門知識という形で称賛する一方で、その専門知識に限界があることを正確に捉えている(ストレートの白人男性が、バイセクシュアルの先住民女性にとって、彼の組織がどのようなところなのかを最初から知っているはずはない)。第3に、D&Iの取り組みを成功させるために必要な謙遜さと好奇心を、優れたリーダー像と明確に関連づけられる。

 1970年代、エリオット・アロンソンとその教え子たちが、「ジグゾー法」という学習法を開発して広めた。この方法では、グループ内の各生徒に回答の一部を与え、皆が協力して問題を解くことを求められる。これは、協働学習の相互依存的活動だ。それぞれが貴重な知識を持ち寄るのである。誰一人、自分だけでは解決策を導き出すことはできない。

 この方法は、特権的な立場にあるリーダーたちを、どのようにしてD&Iイニシアチブにより深く引き込むか考えるうえで、よいヒントになる。各個人のユニークな経験を複雑なパズルのピースだと理解すれば、我々は身構えるのをやめて、より公平な世界をともにつくる道を見出せるだろう。


HBR.org原文:How to Show White Men That Diversity and Inclusion Efforts Need Them, October 28, 2019.

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リリー・チェン(Lily Zheng)
ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンのコンサルタント。ポジティブな意図をポジティブな結果に変える組織とともに働くエグゼクティブコーチ。共著にGender Ambiguity in the WorkplaceThe Ethical Selloutともに未訳)がある。