職場への復帰

 周囲の支えは、子どもを亡くした人が喪失に対処するために、きわめて重要な要素の一つだ。それは、その人の職場生活と人生を大きく左右する。

 死産や新生児死亡を経験した親を支援する英国の団体「SANDS」の調査に対して、ある女性がこう語っている。「職場に復帰することを考えるだけで、ぞっとした。でも、実際は思っていたほど辛くなかった。最初はしっくりこなかったけれど、みんなが優しく迎えてくれたおかげで、うまく職場に馴染めた」

 大切な人を亡くした人すべてに言えることだが、妊娠喪失を経験した人がどのくらい早期に職場復帰できると感じるか、そして復帰したいと思うかは、人によって異なる。子どもを失う経験が精神と肉体にどのような影響を及ぼし、それが仕事に対する考え方にどのように作用するかは、人それぞれだ。

 職場復帰することで以前の生活習慣を取り戻し、働くことでいくらか気がまぎれる人もいる。その一方で、以前のようには業務を遂行できない人や、自分の辛さを理解できない人たちに囲まれて働くことに気が進まない人もいる。また、経済的な理由で早く仕事に復帰せざるをえない人も少なくない。

 しかも、流産や死産を経験した人が育児休業制度をどの程度利用できるかも一様でない。英国では、妊娠24週以降に死産した女性は、死産でない出産の場合と同様に育児休業などの福利厚生制度を利用する権利が認められている。米国の状況は違う。州や職場による違いが大きく、死産のあとの休業制度に関する法律上の規定もない。

自分をいたわるためにできること

 職場に復帰する前に、同僚たちに何を知ってほしいか、そもそも同僚たちに知られたいかを考えよう。

 妊娠をまだ同僚に知らせていなかった場合は、そのまま誰にも知らせないのも一つの選択だ。しかし、上司にだけはこっそり伝えてもよいかもしれない。妊娠喪失の経験者は、職場に戻ったあとも心身の苦痛を経験する可能性がある。そのとき、上司は事情を知っているほうが力になりやすいだろう。

 妊娠について同僚たちがすでに知っている場合は、上司や信頼できる同僚に手紙を書いて事情を知らせ、職場復帰後にどうしてほしいか(たとえば、その経験について語りたいかなど)を伝えれば、職場での自分と同僚たちの日々がいくらか楽になるかもしれない。その上司や同僚に、手紙の内容をほかの同僚たちにも伝えるよう頼もう。

 職場でその話をしたくないという意思表示をしていても、思いがけず話題に上ってしまうケースはある。特に、部署が異なる同僚が言及する可能性は排除できない。研究によると、これは、妊娠喪失を経験した人にとって、職場で最も辛く、最も動揺させられる場面だ。

 職場で尋ねられる可能性がある問いに対して、あらかじめ答えを用意しておくとよい。「赤ちゃんはどんな具合?」というのは、よく聞かれる問いだ。まったく悪意のない問いだが、心を激しくかき乱されかねない。この問いに対しては、子どもを亡くしたという事実だけ伝えれば十分だ。それ以上詳しく説明したり、「私は大丈夫」などと言ったりする必要はない。ただし、その相手に率直な胸の内を語りたい場合は、その気持ちを伝えればよい。その際、どのようなタイミングで話したいかも伝えよう。

 子どもを亡くして間もない時期は特に、子どもが生まれる予定の同僚や、最近子どもができたばかりの同僚と接するのが辛いかもしれない。もし、いたたまれなくなって席をはずしても、同僚たちが事情を知っていれば理解してくれるはずだ。いずれにせよ、妊婦を祝うベビーシャワーに参加するなど、辛い感情が湧いてくるような場に身を置く義務はない。

 重要な節目には、辛い思いが強まるかもしれない。出産予定日や、赤ちゃんの命が失われて1年目、2年目などの日がそうだ。そのような日は、あらかじめ休暇を取るとよい。