次に、データを行動に転換する
前述の調査結果を生かして、PGAとジョプウェルは人材採用を抜本的に変える土台を築くべく、アクションプランを練り上げた。カギとなる3ステップは、アクセスの改善、認知度の向上、アカウンタビリティの仕組みの構築だった。
ステップ1:よりアクセスしやすくする
何が参入障壁になっていて、どうすればそれを打開できるかについて、企業が考えることが重要である。多様な背景を持つ候補者が将来の新規採用の選考対象になるように、対策を講じる必要がある。
そこでPGAは現在、下記のような取り組みを行っている。
・PGAワークスのフェローシップ制度や奨学金制度、キャリア探索イベントを設け、さらにPGA本部でのインターン制度やフルタイムのキャリアチャンスをつくり、デジタルやソーシャルのメディアプラットフォームで目に止まるようにする。
・職種に基づいてウェブページのあちこちに別々に求人を出すのではなく、求人情報すべてを一つのウェブサイトに集約する。
・職探しに使われているネットワークを拡大したり、コミュニティに働きかけたりするためにリソースを投じる(ジョプウェル、『ブラック・エンタープライズ』、リンクトインなど)。
ステップ2:認知度を高める
雇用の機会があることを周知し、アクセスしやすくなったことを確認した後、PGAは次のように自問してみた。多様な背景を持つ候補者にどんなキャリアチャンスがあるか知ってもらうために、我々は何をしているだろうか。本音でこのコミュニティに働きかけているだろうか。
その結果、起こした行動には次のようなことが含まれる。
・PGAやPGAワークスのソーシャルメディアを使って、多様な背景を持つPGAの現従業員やメンバーのストーリーを伝え、彼らがどのようにして自分のキャリアを築いてきたかを伝える。
・大手のマルチメディアパートナーと戦略的提携を結ぶ。その際、『ブラック・エンタープライズ』や『スポーツ・ビジネス・ジャーナル』のように、ゴルフと関わりの薄かったコミュニティで大きなプレゼンスを発揮している、パートナーを選ぶ。
・組織のトップレベルに多様な背景を持つ人がいて、多様性をみずから推進していることを明示する。
・ゴルフ業界のキャリアにおける有色人種の存在を目に見えるかたちで提示する。その一環として、飾らない真の姿を収めたストック写真のアルバム「Golf: The Jopwell x PGA Collection」を制作した。これはPGAと一般市民の両方がリソースとして使えるようにつくられたもので、ゴルフプレーヤーにも業界内で働く人々の中にも、すでに多様性があることを周知しており、現在のページビュー数は1900万PVを超えている。
・就職フェアに参加し、多様な背景を持つ人々に対して、業界内で急成長している領域があることを強調する。
・注目度の高いイベントを開く。その一例がPGAワークス大学選手権だ。そこでは毎年、歴史的黒人大学(HBCUs)やヒスパニックサービング・インスティテューションズ(HSIs)、その他の大学進学率が低いグループに教育の機会を提供している機関を代表して、約200人のアスリート兼学生が競う。アスリートたちには、ゴルフ業界の大手企業でインターンになったり新卒採用されたりする機会も与えられる。
ステップ3:アカウンタビリティの仕組みをつくる
組織文化の変化を促進するためには、そのための仕組みやプロセスが必要である。たとえば、もし応募者が殺到しても滞りなく進められる、適切な面接プロセスの流れができているか。ゴルフの未経験者でも応募可能ということを採用面接官全員に周知しているか。
この点については、次のようなステップが取れる。
・応募者が応募ファネルを速やかに進んでいけるような仕組みを導入する。たとえば、候補者を検討するためのスケジュールを定めたり、候補者にふさわしい他の職種を紹介するプロセスをつくったりする。
・採用プロセスの決定を下す重要なステークホルダーが誰かを理解し、多様な人材の採用について、データを活用してそのトップからの承認を取りつける。
・雇用率が低いグループに属する候補者の面接とトップ・オブ・ファネル(TOFU)の目標を設定する。設定したゴールが組織全体に周知され、皆がそこに向かって協働していることを確実にする。
・ゴール達成までの進捗状況に関する情報を採用マネジャーと共有し、追跡し、報告する。
PGAとジョプウェルのどちらも、変化は一夜にして起こらないことを理解している。それでも適切なデータと新しいアイデア、取るべきステップの計画を立てることで、両組織は率先して参入障壁を打破し続け、多様な背景の人々がゴルフ業界でキャリアの機会を追求できるようにしている。
我々のデータから得た学びや、本稿で述べた今後取るべき行動のリストが、多様な人材を採用しようとしている他の組織に役立つことを願っている。
HBR.org原文:A Data-Drive Approach to Hiring More Diverse Talent, December 10, 2019.
サンディ・クロス(Sandy Cross)
1996年以来、PGAのメンバー。現CPO(チーフ・ピープル・オフィサー)であり、価値に基づく文化の強化を担当。人事部門とインクルージョン・アンド・ダイバーシティ部門の管理も行う。
ポーター・ブラズウェル(Porter Braswell)
黒人、ラテンアメリカ系、ネイティブ・アメリカンの学生や専門職に就く人々を対象にしたキャリアアップ・プラットフォームであるジョプウェルのCEO兼共同創業者。元ウォール街のアナリストだったライアン・ウィリアムズと2015年にジョプウェルを創設。同社のコミュニティと幅広い業界にわたる200社あまりのパートナー企業との間で、数万ものつながりを促進している。
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