●パターンを中断する
不安は、身体的症状の前兆を伴う場合も少なくない。胃がむかつく、手のひらが汗ばむ、鼻の穴が広がるなど、自分が不安に襲われる直前の身体的な手がかりを知ろう。これらは「扁桃体(アミグダラ)ハイジャック」と呼ばれる反応の一部で、強いストレスなどの緊急事態に際し、脳が考えて指示を出すのではなく、闘争・逃走反応を呼び起こす。
不安の前兆となる生理的反応に気がついたきは、意識して行動を変える。たとえば、計算をして脳の思考回路を働かせる。「2足す2」のような単純な計算ではなく、脳の反応をストレス要因からそらすくらい複雑な課題にすること。
●罠に名前をつける
先に挙げた思考パターンの罠や、自分で気がついた罠に名前をつける。名前をつけることによって、漠然とした脅威が具体的なものに変わる。前にも経験して「乗り越えた」不安だとわかれば、立ち向かおうという力がわいてくる。
このように不安の衝撃を緩和する戦略は、自分が陥りやすい具体的な罠に合わせて調整できる。たとえばズルフィは、自分の思考パターンに名前をつけることによって、どのような対策を取ればいいかを理解しやすくなり、「惨事を誇張する」「人の心を推測する」「未来を予測する」という自分の思考パターンを区別できるようになった。
●FUD(不安・疑念・不信)と事実を区別する
左右に2分割した表をつくり、片方の欄に自分が抱えているFUD(不安、疑念、不信)を、もう片方には確認済みの事実を書き出す。2つの欄を見比べると、不安が和らいで現実と向き合いやすくなる。
たとえば、ズルフィは「未来を予測する」と「惨事を誇張する」パターンが混じった思考に陥り、「重要な戦略が失敗しそうだ。すぐに倒産するだろう。競争相手のほうが迅速に動けるし、私たちの子会社は政変が起きている地域にある」と考えていた。
そこで、彼は表のFUDの欄に次のように記入した。「競争相手は私たちより革新的で、市場参入も先を越されるだろう。地政学的な状況は制御不能になるだろう。大不況が来るだろう。我が社の最も優秀な社員は燃え尽きるだろう」
一方で、事実の欄はこんな具合になった。「私たちは市場シェアで過去3回、競争相手に勝った。16の子会社のうち、政治情勢が不安定な地域にあるのは1社のみ。経済指標は安定している。離職率は一貫して低い」
事実と自分の不安を並べたことは、ズルフィの不安を和らげることにつながった。あなたのつくった表で、FUDの欄が事実の欄よりはるかに長くなったら、他人の助けを借りよう。信頼できる人に意見を求めるのだ。あなたの不安を相殺するような、現実的な事実を指摘できる人がいいだろう。
●ストーリーを増やす
私たちは常に、仮説を立てて、結論に飛びつき、自分の中でストーリーを語っている。ストーリーテリングは、さまざまな出来事を乗り越える手助けとなるが、限定的になりやすい。不安に襲われた私たちは、自分が考えたストーリーを信じるだけでなく、その中でも特に極端で否定的なストーリーを信じがちだ。
こうしたストーリーテリングの再帰的な習慣を、抑制するのではなく、あえて浸ってみよう。まず、3つの異なるストーリーを考える。それぞれ大きく違うものにすること。
たとえば、私のあるクライアントは、上司から技術面を深めるように言われた。そこで彼が最初に考えたのは──つまり、彼が自分で考えて自分に言い聞かせたストーリーは──上司が自分のパフォーマンスに満足していない、というものだった。
私が続きを促すと、彼は次の2通りの展開を考えた。「上司は、私が技術面を向上させて、チーム内でもっと大きな影響を与えてほしいと思っている」「上司は、私がほかでも通用しやすいスキルを身につけて、今後昇進したときに社内で担える役割を増やしたいと思っている」
ストーリーを具体的な状況に広げると、いくつもの可能性があって、その多くが自分の当初の仮説よりポジティブであることに気づくだろう。
●有限実行
不安に陥った人に、あなたならどのような助言をするだろうか。私は不安に悩むクライアントに対し、友人やチームのメンバーが似たような状況になったとき、自分ならどんなふうに相談に応じるかを考えてもらう。すると、どうしていいかわからなかった人も、すぐに健全な助言を思いつく。
「追い詰められた」「どうすればいいのだろう」「逃げ場がない」と思ったときは、「同僚がいまの自分と同じ苦境を抱えて助けを求めに来たら、どう声をかけるか」を考えてみよう。このように一呼吸置くと、より客観的になって、囚われていた思考の罠から抜け出しやすくなる。
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これらの戦略はパニックに陥った瞬間から役に立つが、準備をしていても忘れがちで、いざ実行しようとしても慌てるものだ。そこで、これらの要点をメモして、たとえば重要な会議に持参する。不安の前兆である動悸がしたり、喉が渇いたりしたら、メモを見て、どれか1つを試して落ち着こう。
ズルフィもこれらの戦略を試し、10ヵ月目から変化を感じた。不安に襲われる頻度が減り、自己批判が自己共感に変わって、日々の仕事に集中するエネルギーが高まったのだ。
不安や自己不信や混乱は、誰でも経験する。そのような感情は、適切なレベルなら、むしろ慎重さや集中力を維持し、生産性を高めるという効果がある。しかし、不安が私たちの脳に過度な負担をかけ、パフォーマンスを阻害するようなときは、自分の心の対話を自分でコントロールして、有意義な対話を導くような戦略を意識してみよう。
HBR.org原文:How Anxiety Traps Us, and How We Can Break Free, January 02, 2020.
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