我々がECAを2010年に設立した際、エグゼクティブの人材探しを、よりデータ主導で進めたいと考えた。そこで、ストックホルムを拠点とする経済学者のティノ・サナンダジに連絡をとり、正確で研究の裏付けのある採用戦略は何か、調べてもらった。

 当然、ケース面接がトップに来るだろうと、我々は決めてかかっていた。何と言っても、能力を評価するための賢明な方法のように思える。総合的な問題解決スキルを評価するよう設計されているし、問題解決スキルは長期的なパフォーマンス実績と強い相関があるからだ。ビジネスの世界では変化のペースがこれまで以上に速くなっており、採用側は総合的な問題解決スキルを高く評価している。

 ところが、この想定は、学術的な証明のできない思い込みにすぎないとわかり、我々は愕然とした。それどころか、実際には逆の研究結果が出ているという。

 ケース面接は、正答や誤答がないという前提で設計されている。評価する側が、採用候補者によるプレゼンテーションから有益な情報を引き出せるという考え方が根底にあるからだ。たとえば「この候補者には創造力がある」「数字に強い」という具合だ。しかし研究結果によれば、こうした余計な情報は、面接担当者がパフォーマンス実績を予想する精度を下げることが研究で示されている。

 さらに、候補者を評価するための明確かつ系統立った基準がないため、候補者を評価する際、面接担当者はバイアスの影響を受けやすくなっている。

 最後に、正答や誤答がないことは恣意的な意思決定につながる。会社のビジネスモデルに関して掘り下げた話をする候補者が「知的好奇心がある」という理由で採用されるかもしれない一方で、同じような話をした別の候補者は「理論的すぎる」という理由で不採用になるかもしれない。いったい、どちらの採用判断が正しいと言えるだろうか。

 我々は、トップ10に入る一流コンサルティング会社7社のために、人材を紹介した実績がある。こうした企業に対して我々は、ケース面接によって採用後のパフォーマンス実績も予想できたというエビデンスを共有してほしいと依頼してきたが、残念ながら、これまで応じてもらえていない。

 機密データだから外に出せないのかもしれないし、あるいは自分たちの方法がうまく機能していると信じ切っていて、真逆の結果を示すようなデータに関して議論を持ちたくないのかもしれない。ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンが「妥当性の錯覚」と呼ぶものである。

 我々にとって決定的な一撃となったのは、グーグルがケース面接をやめたことだった。

 グーグルの元ピープル・オペレーションズ(人事)担当シニア・バイス・プレジデントであるラズロ・ボックは自著『ワーク・ルールズ!』で、グーグルが入念に面接のデータを集め、何万もの採用者やその面接担当者の業績を測ることで、従来型の採用方法を徹底検証した。面接の各テクニックまで細かく精査した。この研究プロジェクトで、ケース面接が「無益」であるという結論が出たと、ボックは同書の中で述べている。

 彼は後年、次のようにツイートした。「私はケース面接が好きだと思ったことはない……候補者を採用した後の仕事ぶりを予想できるわけではないし、主に面接担当者が自分の頭の良さに優越感を覚える手助けをしているだけだから」

 ケース面接の擁護派に言わせれば、ケース面接は有能な人材を確実に採用するうえで効果的だという。有能な候補者を1人か2人は見逃すこともあるかもしれないが、採用での間違いの代償はとても大きいので、ケース面接ならば確実に優秀な人を効率よく見つけ出せるというのである。

 だがそもそも、その前提が正しいという証拠はない。もし正しかったとしても、優れた候補者を見逃しても損失が少ないのは、ほかにもスーパースター級の候補者を多数見つけられる会社だけである。

 超一流コンサルティング会社であれば何千人もの候補者の中から選べるため、よい候補者を少し逃しても、たいした痛手ではないかもしれない。しかし、ほとんどの会社はマッキンゼーやボストン コンサルティング グループ(BCG)ではない。

 世界のCEOを対象としたPwCの年次調査では、「重要なスキルを持つ人物を採用できない」が、2019年の最も深刻なビジネス上の悩みの第3位に挙げられており、2018年の5位から上昇した。米国で空席になっている職の数が2018年8月に初めて700万を超え、いまなお同水準である。

 このように逼迫した労働市場では、自分たちの目の前に座っている有能な人材を見逃している余裕はない。