必要に応じて締め切りを共有する

 仕事の締め切りが多すぎると、誰でも圧倒される。しかも鬱を抱えている人は、ストレスの大きな出来事に、自分が対応できるという期待値が低くなりがちだ。

 仕事の締め切りを共有する際は、必要なときだけコミュニケーションを取る。もちろん、プロジェクトマネジャーは全体の締め切りを監督しなければならないが、チーム内の専門家にとって、特にその人が鬱を抱えている場合、仕事のタイムラインがすべて決められていると、ストレスの要因と否定的な感情が増えかねない。

 上司としては、大きなプロジェクトを分割することで、鬱の部下を手助けできる。より短期間の締め切りを共有すると、ストレスの要因が減り、否定的な感情を減らせるだろう

 短期間の締め切りは、大きなプロジェクトを、自分で管理できる小さなタスクとして捉えやすくなり、仕事への集中と生産性が高まることがわかっている。このアプローチは、自分が行為の主体だという感覚を促す。この感覚は鬱によって傷つきやすい。

肯定的な結果を重視して批判を減らす

 鬱の人は、かなり自己批判に傾いている。失敗を強調するより、たとえば仕事の締め切りに間に合ったなど、達成感の瞬間に注目しよう。さらに、自分に対してことさら批判的だと感じている人から批判されると、否定的な感情をコントロールする神経回路を活性化しにくくなることがわかっている。

 鬱の人は、脅威や処罰に直面すると、士気が急低下する。動機づけとして仕事の肯定的な必要性を説明することは、プロジェクトが終わらなかった場合の有害なコストを伝えるより、はるかに有効だ。長所と重要性でタスクを定義すると、タスクの魅力を感じやすくなり、本能的な動機が高まる。

 中途半端な仕事が続く部下には、単純なタスクを割り当てるか、あるいは特別に難しいタスクを与えて真剣に取り組ませようと思うかもしれない。しかし、部下はすでに、自分がそうした状況に追い込まれているかのように思っている可能性がある。彼らの様子を折に触れて確かめながら、仕事と彼らの現在の能力や才能が見合っていることを確認する。

 さらに、部下の強みを知って、それを活かす。自分のためにあるような仕事だと思えば、使命感が生まれ、より迅速に終わらせて、自分の力が証明されたという感覚を経験できるだろう。

 この手法は、すぐに大きな効果を生む。自分のタスクが有用なもので、自分の能力が十分に考慮されていると思えると、タスクへの関心が高まり、長期的に鬱の症状が軽減することが、研究からわかっている。

リーダーとして

 鬱との戦いは本人だけでなく、本人と交流する周囲の人々にとっても難しいものだ。上司であるあなたも、鬱の部下との交流が自分にもたらす感情に、注意を向ける必要がある。

 そのような状況に怒りやいら立ちを覚えたり、自分の役割が少ないと感じたりするなら、あらためて思い出そう。鬱に苦しんでいる人は、日々の生活を送ることさえ辛い症状を抱えているのだ。これは、あなたの問題ではない。あなたが上司として、部下をどのように手助けできるかという問題だ。

 鬱は病気であることを忘れずに。さらに、大半の場合は時間的な制約がある。鬱の部下を手助けすることによって、チームや会社を支え、強いリーダーシップを示す。それがあなたのやるべきことだ。

 そして、積極的に動くこと。生産性を高めるために必要なリソースを、部下が利用できるようにする。最近は多くの企業で、EAP(従業員支援プログラム)などのリソースを従業員が無料で使える。

 これらの資源を折に触れて共有することを通じて、チームのメンバーは、あなたを見識のあるリーダーと見なすようになるだろう。そのようなリーダーなら、自分が問題に直面して、仕事のパフォーマンスに深刻な影響が出る前に、あなたに相談しようと思えるかもしれない。

 米国人の5人に1人が心の病を抱えているのだ。人事部など会社とのメールのやり取りに、メンタルヘルスの支援やリソースに関する情報がどのくらい含まれているだろうか。鬱は、適切な計画と調整がなければ、仕事のパフォーマンスに否定的な影響を与える可能性が高くなる。

 リーダーとしてのあなたの仕事は、鬱と戦っている人も含めて、すべての部下がよりよい結果を出せる前向きな職場環境をつくることである。


HBR.org原文:How to Manage an Employee with Depression, January 15, 2020.


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