メリンダ・ゲイツ論文の背景

 特集冒頭の論文「いまこそ、女性の力を解き放つ」の筆者は、メリンダ・ゲイツだ。ビル・ゲイツの妻であり、夫とともに、世界最大の慈善団体、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の共同議長を務めている。大学でコンピュータサイエンスを学んでMBAも取得した後、初期のマイクロソフトに入社し、頭角を現して幹部として活躍。出産を機に育児に専念するため退職したが、財団設立後は、フィランソロピストとして活動している。

 本稿では、メリンダが論文を『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した背景を読み解き、日本の現状に照らして、私たちへの示唆を提示する。論旨は次の通りである。社会の男女観は無意識バイアスの集積であり、それが性別分業の解放を阻害している。実はその無意識バイアスは、解放を望んでいる女性の中にも植え付けられている傾向があり、みずからを縛り付ける状況を招いている。現在の無意識バイアスは、将来の社会基盤となるテクノロジーや法規制にも影響を及ぼしている。以上をデータや研究等をもとに示したうえで、「男女双方にとってよりよい将来のため、日本では男女観を『内から変える質的アプローチ』にもっと取り組むべきである」ということを示したい。

 最初にお断りしたいのだが、私はジェンダー問題の専門家ではない。1986年の男女雇用均等法施行5年後に大学を卒業して、日本の大手銀行に総合職として就職し、その後、私費で米国へMBA留学を経て、外資系大企業3社と日本のスタートアップ企業で働いてきた。さまざまなタイプの組織での勤務経験と、2人の子育てと仕事の間で葛藤してきた経験から、働く人と組織、そして社会との関係に強い関心がある。本稿は、そんな経歴の、一人のビジネスパーソン・母・妻である私の視点から論じるものだ。