私たちは、職場における社交の影響を調べるため、アジアのある大手商業銀行の協力を得ることにした。この会社の記録に基づき、従業員とマネジャーの異動や、従業員の報酬等級、努力、成績を追跡した。また、従業員がマネジャーと休憩を取るか、マネジャーの好きなスポーツチームを知っているといったことも調べた。
まず、経済学で「準実験」と呼ばれる手法を使って、マネジャーの性別が従業員のキャリアに与える影響を調べた。まず、ほぼランダムに起きる、マネジャーの部門間の異動ローテーションを調べ、そのうえで、その異動前後の数ヵ月および数年における従業員の移動を調べた。
これにより、たとえば2人の男性従業員(一人はマネジャーが女性から男性に変わり、もう一人はマネジャーが女性から別の女性に変わった)の昇進を比較できるようになった。どちらも上司の交代を経験したが、男性マネジャーを経験したのは一人だけだ。
オールド・ボイーズ・クラブの仮説が正しければ、男性マネジャーについた男性従業員のほうが、新しいマネジャーも女性だった男性従業員よりも昇進が早いはずだ。なぜなら彼は、男性リーダーという価値あるネットワークへのアクセスを持っているからだ。
私たちの調査結果は、この仮説と一致していた。このアジアの銀行では、男性マネジャーの下についた男性従業員は、女性マネジャーの下についた男性従業員よりも高い地位まで昇進した。上司が交代した2年半後、マネジャーが男性に変わった男性従業員の報酬は、マネジャーが女性のままの男性従業員の報酬よりも約13%多かった。
これに対して、マネジャーの性別は女性従業員のキャリアには何の影響も与えなかった。女性マネジャーの下についた女性従業員は、男性マネジャーの下についた男性従業員ほど、上司との社交から恩恵を得なかったようだ。
これは、女性マネジャーが従業員とあまり交流しなかったからかもしれないし、女性マネジャーは男性従業員も女性従業員も対等に扱ったため、一方に偏った恩恵をもたらさなかったのかもしれない(私たちのデータは後者を示唆している)。
ひょっとすると、男性マネジャーは、男性従業員のやる気を引き出すのがうまく、そのために男性従業員の生産性が上がり、それがスピーディーな昇進につながったのかもしれない。だが、この仮説を裏付ける証拠はいっさい見つからなかった。
マネジャーが女性から男性に変わっても、男性従業員は勤務日数も勤務時間も売上高もほかの従業員とさほど変わらなかった。男性マネジャーは男性従業員が辞めるのを思いとどまらせるのがうまい、という証拠も見つからなかった。