正直者に見られたいという不安が嘘につながる
正直だと思われたいという欲求は、多くの場合、嘘をつくことを思いとどまらせる。ところが、その正反対を引き起こすこともある。
ビジネスの世界には、真実を告げる人が不正直に見られる例がたくさんある。たとえば、あなたがコンサルティング会社のマネジャーで、あるクライアントのために、わずか500時間で仕事を終わらせなくてはならない案件を任されたとしよう。
あなたのチームは期限内にタスクを終わらせるべく、できるだけ勤勉かつ効率的に働き、ぴったり500時間で成果物を提供することができた。あなたは、その数字を正直にクライアントに報告するだろうか。
もちろん、そうするマネジャーもいるだろう。しかし計1167人を対象とする7件の研究によると、このような場合、実際よりも短い時間で終わったと報告するマネジャーが最大35%いることがわかった。きわめて好ましい最終結果が出た場合、イスラエルの弁護士は実際よりも少ない作業時間を依頼人に報告し、学生は学力テストの成績を実際よりも低く報告し、英国と米国の労働者は会社に自分の立替金を少なく報告することがわかった。
このような場合、人は嘘をつくだけでなく、実際よりも少ない物質的報酬を受け取ることを選ぶ。すべては「正直な人だ」という評判を得るために。
公平だと見られたいという不安が
友人に対するバイアスにつながる
あなたはある会社のリーダーで、年次会議で権威ある賞の受賞者を選ぶことになったとしよう。伝統的に、候補者は社員の投票で選ばれ、その中からリーダーが最終的な受賞者を決定する。
今年は、ジェーンとノアが群を抜いて多数の票を得た。厳密には、ジェーンのほうがやや多かった。会社では、ジェーンがあなたの大親友の一人で、ノアとは取り立てて親しくないことはよく知られていた。
あなたはどちらに賞をあげるだろう。わずかだが、より多くの支持を得た友人のジェーンか、それとも、わずかだが支持が少なく、あなたにとっては知人にすぎないノアか。
このように、リーダーとして公平でありたい(最も賞を得るにふさわしい社員を選ぶことにより)という思いと、公平に見られたい(自分の友人や派閥をひいきしないことにより)という思いが衝突する中で、決断を下さなければならないことは、よくある。
私たちは、このような決断をモデルとする8つの実験データを調べた。その結果、2人の社員がどちらも自分の友人でない場合、リーダーは、よりふさわしい資格を持つ社員に賞を与えることがわかった。その一方で、よりふさわしい社員が自分の友人である場合、ほぼきまって、その社員に賞を与えることを避ける。
216人を対象とする実験では、わずかに優れた資格を持つ自分の友人に賞を与えたリーダーは27%にとどまり、わずかに優れた資格を持つが友人ではない人物に賞を与えたリーダーは61%に上った。ある側面でバイアスがない(公平に見られる)と見られようとするあまり、別の側面(資源を不平等に分配すること)でバイアスを持ち込んでしまうのだ。
このような選択をする理由の一つは、自分が公平な人間だと社内にアピールしたいからだということを、私たちは知っている。実験で、社内の誰もリーダーの選択を知らない仕組みをつくると、リーダーはたとえそれが自分の友人だったとしても、よりふさわしい資格を持つ候補者を選ぶことがわかった。
不公平に見られないかという不安は
リソースの無駄につながる
これに関連して、私たちは計2506人を対象とする6つの実験で、不公平だと思われるのではないかという心配が、マネジャーたちにリソースの無駄遣いをさせていることを調べた。
このうち一つの実験では、参加者69人にマネジャーとして、まったく同じ資格を持つ社員2人のどちらか1人に新しいコンピュータを付与しなければならない場合、どちらを選ぶか決めてもらった。すると半分近く(45%)が、どちらの社員にもコンピュータを与えず、保管しておくことを選んだ。
それがリソースを無駄にする行為だという認識はある(それにより「無駄遣いをするな」という規範に違反している)が、社員に公平な人間だと見られるためなら、進んで無駄遣いをしたのである。