マーケットの動きからわかること

 金融市場の荒っぽい動きを見ると、世界経済がリセッションに向かって突き進んでいるように思えるかもしれない。

 安全資産の相場も急騰している。米国長期国債の期間プレミアム(長期債を購入する投資家が求める上乗せ金利)は、史上最低に近い――1.16%を記録した。投資家は、安全な投資先に資金を避難させるためなら、これだけの負担をしてもよいと考えているのだ。この点を見れば、リセッションのリスクが高まっているようにも思える。

 しかし、もっとていねいに検討すると、リセッションが避けられないとまでは言い切れない。

 第1に、新型コロナウイルスがリスク資産の相場に及ぼしている影響は一様でない。まず債券市場では、信用スプレッド(社債と国債の利回りの差)がほとんど拡大していない。つまり、マーケットは少なくともいまのところ、企業の資金繰りに問題が生じるとは見ていないのだ。

 一方、株式相場は、ここしばらくの高値水準から大きく値を下げている。しかし、長期的に見ればまだ高い水準にあることを見落としてはならない。その半面、相場の値動きが非常に荒いことは事実だ。目下の値動きから予測すると、向こう1ヵ月のボラティリティは、2008年の世界金融危機の時期を別にすれば、この30年間で最も激しい水準になりそうだ。

 第2に、金融市場の相場とリセッションの間に関連性が見られることは確かだが(相場の下落がリセッションを引き起こす面も大きい)、相場が下落したとき、常にリセッションに突入するわけではない。

 実際、歴史を振り返ると、過去に米国で相場が下落したケースのうち、リセッションが起きたのはおよそ3回に2回にとどまる。逆に言えば、3回に1回はリセッションになっていないのだ。過去100年を調べると、相場が下落してもリセッションが起きなかったケースが7回もあった。

 いま金融市場が新型コロナウイルスを非常に警戒していることは間違いないし、大きなリスクがあることは事実だ。しかし、相場の動きが一様でないことを見てもわかるように、この感染症に関しては、まだ明らかでないことがあまりに多い。それに歴史に照らせば、マーケットの下落と実体経済のリセッションが直結するとは限らないのだ。